手術症例データベースとして活用可能なオペレコ構築

 肝移植をはじめとする高度先進医療を提供するため、KIFMECは、肝移植に必要な医療情報システムを整備している。その1つがFileMakerを用いた肝移植患者データベースだ。このデータベースシステムは、手術記録システム(オペレコ)や病理診断データ管理、術前・退院サマリー、肝臓がん情報などで構成される。大きな特徴は、電子カルテシステム(キヤノンITSメディカル製)とのデータ連携による相互運用が可能であることに加え、外部機関とのシステム連携により、ワークフロー管理まで行なう遠隔病理診断(テレパソロジー)を実現している点にある。

 オペレコシステムの開発目的について山田氏は、単に実施した手術内容を記録したものではなく、エビデンスを導き出すための分析可能なデータベースを目指したという。「従来、生体肝移植のオペレコは、スケッチを描いたり、主観的な文章を記述したものが大半で、書かれていないことが実施されなかったのか、単に書き漏らしなのかも全く分かりませんでした。そのため、記録すべき項目を細分化し、標準化した書式で記録・蓄積するデータベースが必要と考えていました」(山田氏)と、手術症例データベースとしての活用が狙いだったと話す。

山田氏は以前から、自ら設計したFileMakerによるオペレコを利用しており、明確なビジョンとおおよそのレイアウトを描いていた。今回のシステム開発は、FBA(FileMaker Business Alliance)のメンバーであるジュッポーグループに委託したが、その理由を山田氏は次のように指摘する。

 「医療現場のユーザー自らが比較的容易に開発できることがFileMakerの利点の1つですが、本システムの開発に当たっては、属人性を排し、ユニバーサルなシステムにしたいと考えました。個人で開発すると、要望を実現することに夢中になり、全体像が見えなくなって、つぎはぎだらけのシステムになる危険性があります。“私が好きなFileMakerアプリ”とならないよう、プロの手に成る洗練されたシステムにしたかったことが開発を外部委託した大きな理由です」。

 生体肝移植オペレコシステムの特徴は、レシピエントとドナーの患者情報を常に対比して記録・参照できるところ。血液型などの基本的な情報を含め、並行して相互参照できる作りになっている(写真3)。また、手術症例データベースとして分析・運用しやすいように、できるだけフリーテキストの記述を少なくし、記録すべき項目を細分化して、選択入力できるテンプレートを用意している。「手術中には様々なことが起こりうるという発想で自由度の高い記述方式にすると、テンプレート化は難しくなります。海外での手術を含め、私が携わった約300症例を基に、最大公約数の選択項目からスピーディーに入力できるようにしました」(山田氏)と説明する。

写真3  オペレコのフロント画面。レシピエントとドナーの情報はラジオボタンで切り替わる。海外の医師も利用するため、英語表記を基本としている。
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 その結果、1レコード(レシピエントとドナー)は、約400項目となった。画面遷移をできるだけ少なくして、情報の全体像を把握しやすくするため、FileMaker Pro 13の新機能の1つである「ポップオーバー機能」を利用した(写真4)。これは、他のレイアウトやウインドウに移動せずにフィールドやオブジェクトを表示できる機能で、画面遷移を少なくでき、画面切り替えによって思考が途切れるのを防げるという。

写真4 オペレコの記録項目は左のメニュー表示のようなポップオーバー機能を採用し、画面遷移を極力抑えたつくりになっている。

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 山田氏は、「分析に必要な項目を網羅していながら、操作がシンプルなオペレコができました。生体肝移植を行なっている海外の医師から、オペレコの情報を欲しいと言われることが多く、知識・技術移転にも役立てられると思っています」と評価している。