本記事は、日経WinPC2012年9月号に掲載した連載「PC技術興亡史」を再掲したものです。社名や肩書などは掲載時のものです。

 現在のストレージにおける大きなキーワードはSSD(Solid State Drive)だ。本来は半導体メモリーを使ったHDD互換の記憶装置全般を指す。SSDそのものは1980年代から存在しており、企業向けにSRAMを採用したものがあった。SRAMを使ったSSDは揮発性メモリーを使っていたので、電源が切れると中身も消えてしまって、HDDと同じようには使えなかった。

 フラッシュメモリーが急速に大容量化し低価格化が進んだことで、SSDに仕立てた製品が2007年前後から急速に普及し始めた。ソニーの「VAIO UX」など、SSDを採用したPCはあったが、火付け役となったのはASUSTeK Computerの「Eee PC」だろう。2008年に発売されたEee PCは、いわゆるネットブックの先駆けで、基板の上に4G~16GBのフラッシュメモリーをそのまま実装していた。

 当初は高価だったが、価格が下落して普及のめどが付いた。フラッシュメモリー自体の大容量化と低価格化による。プロセスの微細化でフラッシュメモリーのチップ1個当たりの記録容量を増やすのが常道だが、プロセスを微細化するとフラッシュメモリーの書き換え寿命が急速に縮み、読み出しエラーが増える。特に2009年あたりから本格的に利用されるようになったMLC型(1個の記憶セルに2ビットのデータを蓄える)は、それまで主流だったSLC型(1個の記憶セルに1ビットのデータを蓄える)と比較して記録容量が2倍に増えたものの、書き換え寿命は1~2桁減った。フラッシュメモリーの特定の箇所のみを集中的に書き換えず、フラッシュメモリー全体に満遍無く書き換えるウエアレベリングを施したり、ECC(ErrorCheck and Correct:エラーの検出と訂正)機能を強化する必要があった。

 フラッシュメモリーはブロック単位で読み書きするので、HDDのようにセクター単位で読み書きしない。そこで、セクター単位のアクセスをブロック単位に変換する必要がある。

 こうした諸々の「やるべきこと」をまとめて管理しているのがコントローラーと呼ばれるチップである。SSDの性能や特性は、このコントローラーが鍵を握っている。IntelやJMicron Technology、MarvellTechnology Group、SandForce(現LSI)、INDILINX、東芝などさまざまなメーカーがコントローラーを投入している(図1)。

図1 Serial ATAの信号線が見える側から見ると、左手に比較的大きなLSIがある(左)。これがSSDのコントローラーで、Sand Forceブランドの「SF-2281」を搭載して いる。反対の面にフラッシュメモリーが8個搭載されている(右)。これは120GB品なので、実装は片側のみだ。
[画像のクリックで拡大表示]