本記事は、日経WinPC2012年4月号に掲載した連載「PC技術興亡史」を再掲したものです。社名や肩書などは掲載時のものです。

 SCSIの登場に合わせ、本格的なHDDの普及が始まった。しかし一方で「より低価格」にという要望は強く寄せられていた。実際、SCSIは大半のPCにとってオーバースペックだった。HDDは1台か、多くて2台。CDROMなどの光学式ドライブも接続する要件はまだ先の話だった。1980年代後半~1990年代前半の時点では、CD-ROMドライブ自体が高価だったから、インターフェースは機能が高いSCSIが選ばれた。IDEの規格が策定された1986年の時点では、CD-ROMはまだPC向けの標準デバイスとしては考えられてなかったのである。つまりHDDだけを接続すればよい。

 PC向けに、ST-506をベースに作られたのがIDE(Integrated Drive Electronics)である。この規格を策定したのは、Compaq Computer、Control Data Corporation(CDC)、Western Digital(WD)の3社。ドライブ本体をCDC、コントローラーをWDがそれぞれ製造し、出来上がったIDE対応のHDDをCompaqが自社製品に搭載するという関係だ。最初のIDEドライブは、Compaq製品に搭載された。

 IDEの仕様は非公開ではなく、他のメーカーもIDE規格の製品を作れた。CDCに続きMaxtorやConner PeripheralsなどもIDE対応ドライブを製造・販売し始めた。WD以外にもコントローラーを開発・製造するメーカーが登場し、急速にIDEの市場は広がり始めた。

 IDEは最初に挙げた3社が独自に策定した規格なので、IDEの仕様を独自拡張するメーカーも出てきた。標準化を進めないと互換性が失われてしまう。そこでIDEをベースにANSI(米国規格協会)で標準化され、1994年に「ANSI X3.221-1994, AT Attachment Interface for Disk Drives」として成立する。これが「ATA-1」として知られる最初の標準規格である。この時点ではHDD以外の接続は考えられておらず、CD-ROMドライブなどは接続できない。

ISAバスを前提に機能を絞って低価格化

図1 IDEでは1つのインターフェースに2台のドライブを接続できる。1台はマスター、もう1台はスレーブとなる。1台接続時はドライブをマスターとして動作させなければならない。

 IDEは低価格で接続するため、いろいろな割り切りと合理性の結晶ともいえる構造になっている。データ転送幅は16ビットだが、これはIBM PC ATのISAバスが16ビット幅で、ISAの転送とIDEの転送がちょうど合うようになっている。また、外部接続は一切考慮されておらず、PCケース内部での接続とした。ケーブル1本当たりのドライブは2台に制限された(図1)。