今、ようやく、電池が自動車に欠かせないものとなりつつある。
日本に最初の自動車が入ってきたころを想像させる資料としては、フランス人画家のG.F.Bigot†氏が1898年に発刊した『極東にて』が有名だ(図1)1)。同氏の絵は、初めて見る自動車に驚く日本の人々や、得意げな車上の外国人の表情をよくとらえている注1)。そして自動車は、排気ガスを派手にまき散らしている。
以来、自動車は110年近く、炭酸ガス(CO2)や公害物質を吐き出し続けてきた。排気ガスをなんとかしなければという機運が高まったのは、20世紀後半のことである。LEV(low emission vehicle)やULEV(ultralow emission vehicle)、ZEV(zero-emission vehicle)という考えが生まれた。特に、ZEVを内燃機関で実現するのは困難である。そこで、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)が開発されるようになった。
排気ガス規制も当初、公害物質がその対象だった。だが近年、地球温暖化防止の観点から、CO2排出削減の重要性が増してきた。また、化石燃料の枯渇が懸念され、自動車の脱石油化も叫ばれるようになった。
自動車向けの電池開発には長い歴史がある。電池が化石燃料を代替することは、電池技術者にとって一つの悲願でもある。筆者がソニーに入社したのは1960年代半ば。そのころ、既にソニーでは自動車向けの電池開発を始めていた。当時、我々が挑んでいたのは空気電池である。この空気電池が最近、EVの盛り上がりとともに、“ポスト”Liイオン2次電池(LIB)として再び注目を集めている。