今のLiイオン2次電池(LIB)を取り巻く環境は、筆者にはシェイクスピアの戯曲『ベニスの商人』のように思えてならない。

 多くの人は、“ベニスの商人”が高利貸しの悪人“シャイロック”だと思うらしい。しかし、本当の“ベニスの商人”は友情にあつい善人“アントーニオ”である。親友のために借金の保証人となり、期限までに返済できなければ自らの体の肉1ポンドを切り取ってもよいという証文に、サインまでしてしまう。しっかりと熟読すれば、誰もが合点いくはずだ。

 LIBも同じ。“熟読”せず、なんとなく危険な悪者だとする風潮が強まっている。本当は“アントーニオ”であるにもかかわらず、“シャイロック”ではないかとの大きな誤解がはびこっている。この誤解を解く狙いから、LIB自身の危険性よりも扱い方に問題が多いことや、今後有望な電解液による安全化技術(イオン液体やレドックス・シャトル材など)について紹介してきた。微力ながら、“アントーニオ”を救い出す美貌の貴婦人“ポーシャ”の役を買って出たつもりである。

 ここでも、まずは“ポーシャ”を演じたい。具体的には、LIBを構成する正極と負極の活物質による安全性向上の可能性について解説する。その後、高容量化に向けた開発の最前線を紹介する。