近年、救急隊が患者収容時にその場で12誘導心電図を取り、すぐに伝送して専門医の指示を仰ぐ「12誘導心電図伝送」システムが注目されている。インターネットを用いた低コストのシステムも開発され、国内普及が進みそうだ。


東京大学の藤田英雄氏は「低コストで臨床的に十分な情報を送るシステムの構築を目指し、モバイルクラウド心電図伝送システムを開発した」と話す。

 「12誘導心電図伝送により、急性心筋梗塞の早期診断と治療が可能になる。それだけ患者の予後改善が期待できるので、全国への普及が待たれている」――。インターネットを利用した「モバイルクラウド心電図伝送」システムを開発した、東京大学大学院健康空間情報学特任准教授の藤田英雄氏はこう話す。

 急性心筋梗塞では「door to balloon time」(病院到着から病変部位の再灌流までの時間)が延びることで、合併症の頻度や死亡率が増加する。そのため胸痛などで急性心筋梗塞が疑われた場合は、心電図検査でST波の変化を確認し、緊急で冠動脈インターベンション(PCI)を施行するかを迅速に判断しなければならない。

 12誘導心電図伝送とは、救急隊が患者に接触した時点で12誘導心電図検査を行い、医療機関へ心電図データを送るシステムを指す。心電図伝送により、患者の病院到着前から専門医による診断が可能となる。PCIが必要と判断した場合は、そのスタッフを事前に召集することで、door to balloon timeの短縮を図ることができる(図1)。

図1 心電図伝送によるdoor to balloon timeの短縮効果
(取材を基に編集部で作成)
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 2014年4月の診療報酬改定で、経皮的冠動脈形成術と経皮的冠動脈ステント留置術の手術料が改編され、急性心筋梗塞については、算定要件の1つに「door to balloon timeが90分以内」が盛り込まれた。これも、door to balloon timeを確実に短縮できる心電図伝送が注目されるきっかけとなった。

 日本蘇生協議会(JRC)ガイドライン2010など、国内外のガイドラインでも、病院前12誘導心電図の記録を推奨し、現場で判読できない場合は伝送することが望ましいとしている。