出典:『稼ぐビッグデータ・IoT技術 徹底解説』の第2章 先進事例(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 計測データを分析して製品の使われ方と信頼性に関する裕度を可視化し、その知見を製品の設計に活用するための研究開発を紹介する。計測データと材料データを比較評価することで、機械構造の信頼性の可視化と信頼性設計の適正化が可能になる。そのために、計測技術、材料試験技術から信頼性評価技術までの一連の技術群を開発した。本稿では、それらの技術について解説する。

1 はじめに

 事業展開のグローバル化に伴って、発電プラント、建設機械、鉄道などの社会インフラ製品は世界のさまざまな地域で異なった使われ方をする状況が生まれている。製品の開発時には、製品が使われる環境や使われ方を想定し、かつ製品規格を満足するように設計が行われる。従って、使用環境や使われ方が正確に想定できれば、信頼性が高い製 品が開発できる。

 前述のように、使用環境や使われ方が多様化する状況では、世界各地から収集されるビッグデータの活用が開発設計時の想定の正しさを検証するのに非常に有効である。インフラ製品分野でのビッグデータ活用は、主にO&M(Operation and Maintenance)事業の高度化を目的としているものが多いが、ここでは日立独自の取り組みである、開発設計の評価・検証でのビッグデータの活用例を紹介する。

2 評価・検証におけるビッグデータ活用

 ビッグデータを活用した開発設計の評価・検証の流れを図1に示す。この図では、特に製品の構造強度信頼性に関する評価・検証に重点を置いたデータ活用の流れを示している。この流れに沿った評価・検証によって高度化された日立独自の信頼性に関する設計技術を、計測データ活用信頼性設計(Data-Inspired Reliability Design:DIRD)と呼んでいる。

図1 計測データ活用信頼性設計(Data-inspired reliability design)
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 自社の実証設備または顧客サイトで計測されたビッグデータは、ネットワーク経由でデータ分析室に送られる。データ分析室に送られた計測データには評価・検証向けの分析が施される。特に、構造強度信頼性に関して分析を行う場合、構造に作用する外力によって生じる応力(力を面積で割った値)の分布が分析によって明らかになる。応力など、製品の構造において発生する物理量に加え、製品が曝される環境のデータ(温度、湿度、風速など)もデータ分析室に送られる。この環境データは、製品に使用されている材料が実際の環境に長時間曝された場合に、どの程度劣化するかの評価に活用される。

 このように、劣化を考慮した材料の強度分布と、応力の分布を比較することにより、製品の構造強度信頼性に関する裕度が評価できる。すなわち、応力と材料強度の確率分布の重畳面積が構造の破壊確率を表すので、この破壊確率に基づき対象構造の良しあしを強度信頼性の観点で判定することができる。

 開発設計の段階では、破壊確率が十分に小さい値となるように構造が設計される。この開発設計時に設定した破壊確率と、データ分析によって明らかにされた真の破壊確率を比べることで、構造に作用する外力や計算モデルなどの設計時の想定の正しさを検証することができる。

 試作機で収集したビッグデータを活用して設計想定(設計条件)を適正化し、その適正化された条件で量産機を開発すれば、高信頼なインフラ製品を顧客に提供することができる。また、世界中の量産機から収集されたビッグデータは、同地域に投入される次期製品の開発設計に活用可能である。

 計測データ活用信頼性設計技術を適用して、風力発電システムのタワーの強度信頼性を評価・検証した例を図2に示す。風車のタワーにひずみゲージを貼り付けて計測したひずみの時系列データから、タワー溶接部の疲労損傷を評価したものである。この評価結果に基づいて、開発設計時に想定された条件の妥当性を確認している。

図2 ビッグデータを活用した風車の強度信頼性に関する評価
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