出典:『稼ぐビッグデータ・IoT技術 徹底解説』の第2章 先進事例(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

 半導体技術の発展で、機器に安価なセンサーを大量に取り付けることができるようになった。センサーから生み出されるビッグデータにより、社会インフラの保守サービスは従来よりも高度かつ適切なタイミングで行えるようになり、保守コストの低減および人材不足の解消につながると期待される。本稿ではセンサーの設置、データ通信、アナリティクスに関する動向を解説し、これらを活用した保守サービス事例について紹介する。

1 はじめに

 新興国における社会インフラ需要の高まりに従い、製造業における新興国の売上高比率は2012年の35%からさらなる増加が期待される1)。社会インフラ事業では、設備機器の販売だけでなく運用や保守といった製品ライフサイクル全体での対応が重要となり、海外展開における課題となっている。運用や保守では人的リソースに頼ることが多く、事業を拡大するためには優秀な人材を確保することが必要となる。

 しかし、人材の確保や育成には費用と時間がかかるため、ICT ( Inform ationand Communication Technology)を活用したシステム化や自動化による運用、保守作業の高度化や省力化が注目を浴びている。そのような動向の中、IoT(Internet of things)、すなわちモノをつないでデータ通信を行い、集めたデータを活用してインフラ機器の運用保守サービスを効率化する具体的な動きが出てきている。本稿では、社会インフラ機器の保守サービスを支えるビッグデータ活用の適用事例を紹介する。

2 従来システムにおける保守サービス

 電力、鉄道、水道といった社会インフラ事業では、事業活動が停止すると地域社会に大きなダメージを与えるため、プラントの稼働や運行の状態をモニタリングする監視システムが従来存在している。これらの停止すると影響の大きな大規模システムでは、教育を受けた専任のオペレーターや監視員がいるのが通常である。そして、社会インフラ事業に使用される設備機器の多くは、装置に組み込まれたアラームシステムによって機器の不具合や故障をオペレーターや監視員に伝える仕組みができている。

 しかし、アラームが出たときの対応としては、保守員がアラームの内容を解析して必要な対応を実施する場合に解析や修理に時間を要するなど、運用に支障を来すこともある。また、アラームの内容は、詳細の稼働状態を示すデータまでは含まれておらず、機器側にも記録されていないのが依然として一般的である。機器に取り付けられたセンサーデータなど、稼働状態を把握する手段があれば故障分析や運用方法の適正化などを適切なタイミングで実施することが可能となり、システム化や自動化も期待できるためICTの適用が望まれている。