2020年開催の東京五輪では、海外および国内の地方からの旅行者が東京近郊に集まる。さらに競技会場では何万人もの人々が集まり、駅や通りが人であふれかえることが予想される。こうした場面で快適性、安全性を確保する際にも、ICTを活用できる。

 交通関連の話題では、クルマの渋滞回避・解消(交通管制)や安全運転支援に向けた取り組みはよく耳にするだろう。いわゆるITS(高度道路交通システム)である。こうした中で、人の混雑を対象にした交通システムは比較的珍しい考え方かもしれない。ただ、首都圏での朝夕の通勤ラッシュはもとより、イベント時の駅周辺の混雑は、人の移動に関する快適性を損なううえ、駅での線路への落下や将棋倒しなどの危険も伴う。そこで考えたいのが、最低限の快適性を維持しつつ、安全に、公共交通機関などの輸送能力を最大限に引き出して人を移動させる方法である。

 実は、このテーマを研究し、既に数年にわたって実証している機関がある。オーストリアのオーストリア技術研究所(AIT:Austrian Institute of Technology)だ。AITは国が50.46%、オーストリア産業連盟が49.54%を出資して設立した研究所で、エネルギーやモビリティー、安全・セキュリティ、先端医療など、未来の社会インフラに関する各種テーマの研究を進めている。

 このうちのモビリティーの研究の一つに、人の流れを監視して混雑状況を解析し、制御するクラウドダイナミクスがある。赤外線センサー、カメラ、光センサー、GPS(全地球測位システム)、RFID(無線ICタグ)などの仕組みを使って、対象となる場所の人の流れを把握する。

 これらのデータを分析すると、人々が代替ルートとしてどの経路を使うかなどが見えてくる。これを基にして、人の流れを最適化するシミュレーションモデルを作成し、混雑を緩和する最適解を探っていく。歩行者の経路の選び方は、クルマに比べると自由度がはるかに高く、行動を理解しづらいため、シミュレーションモデル作りはクルマを対象とする場合以上に難しいのだという。