1日1.3万歩の旅館の女将は、なぜ骨粗しょう症に

 中強度運動がいかに重要かを示す例として、青柳氏はある旅館の女将の話を披露した。「その女将さんは1日1万3000歩が日常だったが、骨粗しょう症にかかり、はずみで骨折してしまった。確かに歩数は多いのだが、旅館での歩行はすり足で強度を伴わない。また、外出しないために太陽光を浴びなかったのも要因だろう」。中強度運動を心がけることの重要性は、今回の講演で繰り返し青柳氏が指摘した点だ。

 その他、生活習慣を中心とした健康づくりに欠かせない条件として、四季の変化を含む気象条件、近親者の死亡などに伴うライフイベント、高齢者の転倒経験、地理情報などを挙げた。地理情報というのは半径500m以内に暮らす同一地域のコミュニティーのことで、「近い地域内でリーダーシップを取る人間がいると、みんなが引っ張りあげられる。もしかしたら健康ステーションをそれぐらいの範囲で設けるのが理想なのかもしれない」(青柳氏)と語った。

 14年に渡る研究の結果、中之条町では医療費削減という目に見える効果が生まれた。活動量計の装着者と非装着者では、医療費に月額約1万円の開きが見られるまでになっているという。

 「誰もが持っている長寿遺伝子というものがある。その遺伝子にスイッチを入れるのに2カ月かかるが、筋トレを2カ月やって終わっていたのが今までの自治体の健康づくりなのではないか。私が提案しているのは、一生涯付き合える健康づくり。今、中之条町では保健センターや公民館など、健康コミュニティーとなっている場所が34ヵ所ある。そこへ来ることが体を動かすことになっている。奈良県の健康ステーションも同様だが、まちづくりを通して体を動かすのも1つの方法だろう」(青柳氏)。