本記事は、日経WinPC2011年7月号に掲載した連載「PC技術興亡史」を再掲したものです。社名や肩書などは掲載時のものです。

  前回まででIBM PC AT世代のグラフィックス機構であるEGAまで解説した。今回はそれに続き、今でも目にする機会の多いVGA(Video Graphics Array)以降の動きを紹介しよう。

640×480ピクセルと
256色表示を初めて搭載

 1987年、IBMはEGAの後継製品としてVGAを発表する。最初に搭載されたのはIBMの「PS/2」だ。これは拡張ボードでなくマザーボード上に実装された。その後、ISAバスボードとして従来のIBM PC ATなどに対応した。

 VGAは、従来のMDA/CGA/EGAと異なり、専用のASIC(特定用途向けIC)を採用した初めての製品である。これまでは略語の最後の「A」は「Adapter」だったが、VGAからは「Array」に変わった。マザーボードに直接搭載していて、アダプターではないことに加え、専用ASIC(ASICの一種として、ゲートアレイと呼ばれるものがある)を使っていることも関係していると言われている。

 このVGAは256KBのDRAMを搭載し、初めて640×480ピクセルの表示や256色表示に対応した。

 技術的には、現在も使われている15ピンのD-Sub端子(アナログRGB)がこの時初めて登場した。信号の仕様は、このVGAで基本的に確立された。「Color LUT(LookUp Table)」が追加されたのも特徴である。例えば、320×200ピクセルの256色モードの場合、VGAは26万色中の256色を同時に表示できる。このモードの場合、色情報を格納するバッファーは図1のようになっている。各ピクセルは1バイト(=8ビット)幅だ。VGAはこのバッファーを左上から順に1バイトずつなめるようにアクセスして、その値とColor LUTを参照してそのピクセルの色出力を決定する。

図1 VGAは640×480ピクセル表示や、256色表示などを初めて採用するなど、今のPC用グラフィックスの礎となった。テレビ出力(NTSC出力)が廃止され、アナログRGB端子が導入されたのはVGAが初めてである。これ以外に、色情報を変換するためのColor LUT(LookUp Table)が追加されたという特徴もある。
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 例えば、画面の左上ピクセルの値が0x40だったとする。0x40に相当する出力は、Color LUT上ではRGBがそれぞれ0x3F、00、0x3Fの値になっている。この3個の値をDA変換器に入力すると、紫色が表示されるという仕組みだ。VGAの場合Color LUTはRGB各6ビット、全体で18ビットとなるので、表示色数の総数は2の18乗=26万2144色という計算になる。

 VGAと同時にIBMは「MCGA(Memory Controller Gate Array)」と呼ばれるグラフィックス機構も発表した。VGA同様、マザーボードに直接搭載する。PS/2の上位モデルにはVGAが、下位モデルにはMCGAが搭載された。MCGAはCGAとMDAの互換モードを搭載しつつ、部分的にVGAの互換モードも搭載するという中途半端なものだった。