本記事は、日経WinPC2010年10月号に掲載した連載「CPU今昔物語」を再掲したものです。社名や肩書などは掲載時のものです。

 第1世代のPCを支えた、Zilogの「Z-80」とMOS Technologyの「MCS6502」。両者はそれだけでも十分にエポックメイキングな存在だが、その命令セットアーキテクチャーが長く現役であり続けている点でも画期的なCPUだったと言える。例えばゲーム機を見ると、Z-80は任天堂の「ゲームボーイ」に使われていたし、MCS6502は「スーパーファミコン」に使われていた。命令セットという点では、Appleの「iPhone」をはじめ、多くの携帯電話で使われている「ARM」のコアは、MCS6502の流れをくむ。Z-80も同様で、16ビット拡張版などを含め、今でも多くの半導体メーカーが販売している。

ZilogのZ-80
ZilogのZ-80
8080の命令セットと互換性を持たせつつ、機能を大幅に拡張した。上のセラミックパッケージよりも、下のプラスチックパッケージの方が主流だった。当時日本で目にした「Z-80」のほとんどはセカンドソースメーカー製だった。写真はいずれもCPU-World(http://www.cpu-world.com/)の提供。
Z-80のダイ写真
Z-80のダイ写真
トランジスター数は8200個で、8080の約6000個より約2200個多い。プロセスは当初nMOS、後にCMOSによる実装もなされた。nMOSのプロセス改善により、スイッチング速度は8080より高速化しているという。

 IntelとMotorolaという、CPUで覇を競い合った当時のメーカーから、両者とも設計者が飛び出して作り直したという点も共通している。ただ、性格という点では、両者はとても対照的だ。簡単にまとめれば、複雑で力業を使って高速化したZ-80に対し、単純化してマイクロアーキテクチャーを工夫することで高速化したMCS6502と言えるだろう。

Z-80のアーキテクチャー
内部バスをトランジスターを使って4種類のデータバスとして利用している。ALUは4ビットだが、高速に動作させることで性能を低下させなかった。
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