細胞を自在に配合して臓器を作る

 続いて、佐賀大学 医学部 胸部・心臓血管外科の伊藤学氏が登壇。「バイオ3Dプリンターを用いた臓器再生」と題して講演した。同氏らのグループは、上述のNEDOプロジェクトで選ばれた5つのテーマのうちの「バイオ3Dプリンターで造形した小口径Scaffold free細胞人工血管の臨床開発」の委託予定先の1つに選ばれた。

講演する伊藤氏
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 伊藤氏らは、多数の細胞の凝集体(スフェロイド)に着目した再生臓器の研究を進めている。スフェロイドの積層技術としてバイオ3Dプリンターが活用できるという。スフェロイドには、複数種の細胞を混合して作れるという特徴があり、混合する細胞の種類や比率を変えることで、さまざまな性質を持たせることが可能だ。例えば、血管内皮細胞と血管平滑筋細胞、線維芽細胞をある比率で混合すると、血管組織型スフェロイドを作製できる。これを大量に培養することで、人工透析や、心疾患治療のためのバイパスに使えるような血管(構造体)を作れる。

 こうしたスフェロイドベースの組織や臓器の作製に、バイオ3Dプリンターを使う。3Dプリンターではさまざまなデザインが可能であることに加え、組織・臓器の機能に応じた細胞の選択や配合の調整が可能で、スキャホールドも不要にできる。臨床応用上重要な再現性にも優れる。

 伊藤氏らは、バイオ3Dプリンターを用いて血管構造体や弁構造体、軟骨などが作れることを確認済みだ。今後は、何らかの臓器不全に陥った患者に対し、iPS細胞などから目的臓器に応じた組織型スフェロイドを作り、3Dプリンターを使って機能的3次元組織を作製。これを再生臓器として移植するようなアプローチが考えられるとした。そこに向けた「最初のアプローチとしては、(自分の組織を使う)自家移植がふさわしいのではないか」(同氏)。