医工連携とはそもそも何なのか

 次に登壇した名古屋臨床薬理研究所 代表取締役の伊藤順治氏は、コーディネーターの立場から現場の意見を発表した。医工連携事業に携わり3年半が経つという伊藤氏は、まず「医工連携とはそもそも何なのか。ここを履き違えると問題が出てくる」とした上で、「産業界が持っている技術を用いて、医療現場で困っている問題を助けてあげようという話。医師との付き合いを難しく考えがちだが、医師、看護師、作業療法士などが苦労していることを、技術を使って少しでも楽にさせてあげましょうと。とてもやりやすい分野だと理解してほしい」との持論を展開した。

名古屋臨床薬理研究所の伊藤氏
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 現場の最前線で活動している伊藤氏は、ビジネス化を前提とした戦略が必要であると指摘した。「特に大学のシーズから来ているものは、特許の残余期間が短いものが多く、製品化までに特許が切れてしまうと、商品を出したときに一斉に競争になり、ビジネスにならないケースもある。企画・研究の段階での知財戦略は重要だ。こういう場合に、コーディネーターの力が必要になるだろう」。

 また、一般工業製品と異なり、必ず開発過程で第三者評価を実施しなくてはならない難しさについても言及した。「製品化の前に、できる限り多くの“使いたい”という評価を集めておかないと厳しい。医療現場はアナログな世界で、実際に試作品を使って“良い”と思われなければ絶対に使われない」との体験談も語った。

 伊藤氏はこの他、名古屋市立大学が作成した3Dプリンターによる精密な肺模型を用いて、京都大学における生体肺移植の成功に結びつけた事例を紹介。そこから発展し、2014年8月に名古屋市立大学病院内に「医療デザイン研究センター」が設置された。伊藤氏は名古屋市の委託を受け、このプロジェクトの企画から商品化までをコーディネートしているという。

 「病院に近いと試作評価が早くなる。24時間体制で動いているので、開発担当企業は大変だと思うが、改良点の洗い出しが早くなる」(伊藤氏)。今後は、同センターを中心に、医療的な感覚を持ったCADオペレーターの養成ももくろんでいる。