胃がんの術後合併症を減らす

 直腸や肺、子宮に先行する形で、da Vinciはここにきて立て続けに2つの領域で先進医療として承認された。2014年8月に承認された「腎臓がん(腎細胞がん)の部分切除術」と、同年9月に承認された「胃がん手術」である。これらの領域の先進医療申請を主導した臨床医2人が、上條氏に続いて登壇した。

 まず、胃がん手術への適用について、藤田保健衛生大学 上部消化管外科 教授の宇山一朗氏が紹介した。同氏は腹腔鏡下手術のパイオニアで、ロボット手術の導入をリードしてきた存在でもある。da Vinciについては、日本での発売前の2009年から個人輸入して使い始め、累積症例は200件を超えたという。

藤田保健衛生大学の宇山氏
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 同氏は先進医療申請の根拠となった、藤田保健衛生大学病院における2009年1月~2012年12月のコホート研究のデザインや結果を示した。この研究では、初発胃がんの根治的切除術を行った526例のうち、da Vinci使用群88例と従来法群438例について、手術時間や出血量、リンパ節郭清範囲、術後合併症などを比較した。

 その結果、da Vinci使用群の方が手術時間は平均20分長くなり、出血量も同12ml多くなったが、これらは「実臨床においては問題にならない」(宇山氏)。一方、術後にグレード3以上の重篤な合併症が発生した症例は、従来法群50例(11.4%)に対し、da Vinci使用群では2例(2.3%)にとどまった。手術した箇所に限る局所合併症でみると、従来法群43例(9.8%)に対し、da Vinci使用群ではわずか1例(1.1%)である。さらに、従来法群では胃の全摘術を行うと術後合併症が有意に増えたのに対し、da Vinci使用群では切除範囲による術後合併症の有意差はなかった。

 以上の結果から、「ロボットを使わないことが合併症の最大のリスクになる可能性がある。さらに(進行がんなどに対する)難しい手術でも、ロボットを使うことで合併症発生率を(初期がんなどの)易しい手術と同等に抑えられる可能性を示せた」(宇山氏)。これを受けて、胃がん手術でのロボット使用は保険収載に値すると考え、先進医療承認を申請したと話した。胃がん手術では、術後に抗がん剤による補助化学療法を行うことがあり、その妨げとしないためにも「合併症を減らすことが非常に重要だ」(同氏)。