不妊治療を専門に行う岡山二人クリニックは、1996年の開院以来、院内の情報システム構築に取り組んできた。電子カルテをはじめとする診療支援システム、職員情報共有システムや患者(カップル)との情報共有システムなど、試行錯誤しながら最適なシステム環境の構築を目指している。なかでも診療支援システムの中核として重要な役割を担うのが、FileMakerによるデータ一元管理システムだ。生殖医療に関するあらゆるデータを管理し、治療プロセスの可視化・評価による医療の質向上に貢献している。

生殖医療に欠かせない医療ITシステム

 岡山二人クリニックは、日本産科婦人科学会の生殖補助医療(ART)実施医療機関として登録されている不妊(望妊)治療専門クリニックである。1996年5月の開院以来、昨年までに同院を訪れた初診カップル数は9807組で、7764周期(注:1周期は月経初日から次の月経前日まで)を妊娠に導いている。2013年には888周期で妊娠を達成した。その治療内訳は、一般不妊治療によるもの201周期、人工授精によるもの136周期、体外受精によるもの551周期である。

 現在、生殖医療専門医3人を含む常勤医4人、泌尿器科医など非常勤医4人、不妊症看護認定看護師を含む看護師15人と、胚培養士などが所属する技術部、相談部、医事部、支援部などのスタッフを含め、総勢68人体制で望妊治療に取り組んでいる。この中で相談部には生殖医療コーディネーターをはじめ、臨床心理士、管理栄養士などが在籍しており、最終的に治療方針を決定するカップルに対して、プライバシーを確保した個室で質問や心理的ストレスに対する相談に応じている。

陽圧で清浄に保たれた培養室。中央手前の培養器で受精卵が培養されている。

 岡山二人クリニックは、「より自然でより早い妊娠成立」を治療方針に掲げている。院長の林伸旨氏は、「カップルの要望は、安全・確実な医療技術が提供されることであり、その結果としての高い妊娠率です。しかし、望妊治療を行っても妊娠・出産に至る例は限られます。例えば、体外受精で受精卵(胚)を移植しても妊娠率は約3割程度で、7割は成功に至りません。それだけにデータに基づく事前説明、安全で確実な手技の実施、得られた結果の分析と説明、検証に基づく治療計画の提案などによる『安全・確実・安心な医療提供』が求められます。その上で、「妊娠成立自体でなく望妊治療の各プロセスを評価できること、カップルが自分たちで治療方針を選択できるよう最新データに基づく情報を共有化できる環境を構築することが重要と考えています」と言う。

岡山二人クリニック理事長・院長の林伸旨氏

 しかし、同じ説明をしてもカップルの理解はそれぞれ異なる。「こうした課題に応えるためには、望妊治療全般にわたるプロセスを可視化し、まずスタッフが情報を共有して知識として蓄え、臨床に活用できるようにする必要があります。そのためには、あらゆるデータを一元管理し、効率的に支援するシステムが不可欠と考えています」(林氏)。

 岡山二人クリニックはこうした方針に基づき、96年の開院以来、院内の情報システム化に積極的に取り組んできた。診療システムをはじめ、職員情報共有システム、患者情報共有システムなどで様々なパッケージの導入やカスタマイズなどにより、最適な医療情報システム環境の構築を目指して試行錯誤を繰り返してきた。

待合室にはデジタルサイネージのほか、約30台のノートPCが設置され、患者が自由に利用できる。Q&Aやアンケート、患者同士の情報交換に利用されている。