Cはコストよりもプライス

 C、すなわちコストに関して言えば、Samsung Electronics社は顧客がいくらで買うかを考え、そこから利益分を引き算してコストを決める。最近は日本メーカーでもさすがに、コストありきで利益を積み上げて売り値を決めるのは現実的ではなくなっているようだ。だが、問題はコストだけを切り離して、それを下げることしか頭にない点だ。

 Samsung Electronics社でもコスト削減のためにV E(Value Engineering)を以前から活用している。これまで売り値が100円、コストが90円で利益が10円だったところ、競合が低価格の機種を発売して売り値を80円にしなければならなくなったとする。Samsung Electronics社も当然、コストを70円に下げるように努める。しかし、違うのは売り値を高めることにも努力する点だ。

 具体的には、付加価値を高められるポイントがどこかにないかと探し、例えば「デザインを工夫して売り値を120円にできないか」などと常に考えている(図2)。それでも売り値を上げる手がなく、コストも70円にできないことが判明したら、その時点で商品化を中止する。量産開始後でも、コストが上昇したら中止してしまう。

図2●売り値を顧客価値と連動させる
低価格な製品でコスト競争力を確保するだけではなく、顧客価値を上昇させることによって、プライス(売り値)を上げることができる。Samsung Electronics社はこの両面で考えるが、日本メーカーの多くはプライスを下げることだけに注力する。
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 これに対し、多くの日本メーカーはコモディティー(日用品)化が進んでいない製品についても、なぜかひたすらコストを70円に下げることしか考えない。いや、日本メーカーも多機能化などで付加価値を高める努力はしているのだろうが、顧客にとっての価値を本当に高めているのか疑問だし、それが売り値に反映されているようにも見えない。

 それよりも、「競争力を高めるにはコストを下げるしかない」という固定観念に強く縛られているようだ。その上、動き出したプロジェクトは止められず、完全にコスト70円を達成できなくても発売してしまう。

 あるいは、コストと売り値(プライス)をあまり区別して考えていないのではないかとも思う。日本メーカーは売り値を下げないと売れないと思い込みすぎているため、コストを下げるのだろう。自然と利益も非常に薄いものにしかならない。これに対し、Samsung Electronics社がコストを下げる目的は、売り値を下げるためではなく、利益を確保するためだ。

 売り値を高くする努力の一環として、Samsung Electronics社は1997年の韓国のIMF(国際通貨基金)危機の後、ソビエト連邦の崩壊(1991年)に伴って世界中に流出していたTRIZ(発明的問題解決理論)の技術者を何人も迎え入れた。ちょうど2000年ごろのことだ。当時、テレビを高く買ってもらうために、筆者も参加してさまざまなアイデアを検討した。四方から見られる立方体テレビなどという、お蔵入りしたアイデアも多かったが、欧州で売れに売れたワイングラス型のテレビもこのときの成果の1つである。