マツダのコンパクトカー「デミオ」が30.0km/L(10・15モード*1)、ダイハツ工業の軽自動車「ミラ イース」が32. 0km/L(同)─。今、クルマの低燃費でエンジン車が底力を見せている。従来の軽自動車やコンパクトカーの燃費を超え、ハイブリッド車(HEV)と比べても遜色(そんしょく)ない水準だ(図1)。
例えば、ホンダのコンパクトカーのHEV「フィットハイブリッド」の燃費は30.0km/L。デミオがこれに並び、車格は違うがミライースは2km上回った。これまで「エンジン車は、燃費でHEVにはかなわない」といわれてきた。その「限界」を両社は超えたのだ。そして、この低燃費の達成に最も大きく貢献しているのが、新たに開発した効率に優れるエンジンである。
限界を超えた果実は大きい。「低燃費ならHEV」という、世間に定着していた「常識」を覆し、多くの顧客の目を引き戻すことができるからだ。確かに、HEVの潜在的な低燃費性能はより高く、例えばトヨタ自動車の「アクア」は40km/Lを達成した。その半面、「価格が高い」「車体が重い」という課題もある。事実、デミオと比べて、フィットハイブリッドの価格は約20万円高く、車両重量は約120kg重い。今後の顧客の選択次第で、自動車メーカーはエンジン車とHEVの間でより一層バランスのとれた開発が必要になるかもしれない。
高効率なエンジンの開発に力を入れているのは自動車分野ばかりではない。「昨今の原油の高騰により、あらゆる業界で低燃費でなければ売れない状況になっている」(東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻教授の津江光洋氏)からだ。そのため、船舶、発電、産業用といった幅広い分野で、現在、エンジンの効率を高める技術開発が熱く進められている。
「欧州に負けた」の声
エンジンは100年以上の歴史がある「超成熟技術」だ。効率を高める数多の技術が開発され、「こうすれば、こうなる」という「常識」まで確立されている。20年ほど前にはエンジン技術で「日本は世界一」と称されるようになり、日本の多くのエンジン関係者が技術開発をやり尽くしたという思いを抱いていたという。
こうした背景から、例えば自動車業界では、燃費向上のためにエンジンの高効率化ではなく、15年ほど前からモータと2次電池を利用する方法が「王道」となった。その代表格がHEVや電気自動車(EV)である。HEVやEVの開発に力を入れることが間違っているわけではない。だが、「全てのクルマがHEVやEVに置き換わるわけではないのに、それらに傾注するあまり、エンジンの技術開発が手薄になったことは日本の反省材料だ」と東京大学の津江氏は指摘する。