本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第83巻、第7号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)

テラヘルツ(THz)帯はイメージングや超高速無線通信などさまざまな応用の可能性があり、光源はそれらの応用のキーデバイスである。共鳴トンネルダイオード(RTD)はコンパクトな半導体THz光源の1つとして期待され、電子の遅延時間を短縮する構造により現在までに1.42THzの室温発振が得られており、アンテナ構造の考案やアレイによる高出力化も行われている。また最近では、イメージングやTHz無線通信への応用の基礎実験も始まっている。本稿では、RTDの高周波化・高出力化を目指す研究や、種々の応用に向けた諸特性の研究の進展を紹介する。

1.まえがき

 周波数がおよそ0.1~10THz(波長30μm~3mm)のテラヘルツ(THz)帯は、分光分析やイメージング、大容量通信など幅広い応用の可能性をもつことから、最近盛んに研究が行われるようになってきた1、2)。分光分析では、THz帯での有機物の特徴的なスペクトルから、化学、医療、バイオ・医薬品分析、環境計測などへの応用が期待されている。また、多くの物質に対する透過性から種々のイメージングが研究されており、セキュリティ応用や非接触測定による工業材料の検査などの産業応用が期待されている。基礎科学においても、THz帯の新しい物性分析や新物性の発現などが期待されている。通信分野では、広帯域の未開拓周波数領域として、比較的短距離での数十~百Gb/sの超高速無線伝送が期待され、例えば光ファイバ端末と無線通信を大容量のままシームレスにつなぐシステムなどへの応用が考えられている。

 これらの応用には、THz光源の開発が非常に重要な要素である。現在、フェムト秒レーザーと光伝導アンテナや非線形材料による時間領域分光システムや、固体レーザー励起によるパラメトリック発振器、ガスレーザー、電子管、半導体デバイスなど、多種多様な光源が研究されている。光源に要求される性能は、発生周波数、出力と効率、動作温度、スペクトルやコヒーレンスの特性、波長可変などの機能、コンパクトさ、取り扱いやすさなど、用途に応じてさまざまであり、上に述べた光源それぞれに長所短所がある。

 本稿では、我々が研究してきた共鳴トンネルダイオード(Resonant-Tunneling Diodes:RTD)によるTHz光源について述べるが、これは前述の中の半導体デバイス(細かく分ければ、単体の半導体電子デバイス)の1つである。半導体デバイスによる光源には、単体でTHz波を直接発生するデバイスと、光やマイクロ波の周波数を変換するデバイスがある。単体の半導体デバイスの特長は、やはり何といっても、コンパクトさ、取り扱いやすさであろう。