本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第83巻、第2号に掲載されたものの抜粋です。全文を閲覧するには応用物理学会の会員登録が必要です。会員登録に関して詳しくはこちらから(応用物理学会のホームページへのリンク)。全文を閲覧するにはこちらから(応用物理学会のホームページ内、当該記事へのリンク)

カーボンナノファイバは、既存のカーボンナノチューブと炭素繊維の中間のサイズに位置する新しい繊維状カーボン材料である。本稿では、カーボンナノファイバの研究開発の現状と今後の展望について、その作製法と低炭素技術への展開を中心に解説する。

1.まえがき

 炭素(カーボン)は地球上に豊富に存在し、生物を含む有機化合物の構成元素でもある。炭素原子から構成されるカーボン材料は古くから燃料や顔料として人類に利用されてきた。カルビン、グラファイト、ダイヤモンドなど結合形態の異なる多くの炭素同素体は、この原子のもつsp、sp2、sp3結合の多様性によって生みだされる。その結果、カーボン材料にはさまざまな機能をもつ多様な物質群が存在する1)

 中でも1次元の形状をもつ繊維状カーボン材料は、構造材の軽量化による二酸化炭素排出の低減や電極の高機能化による燃料電池、太陽電池、蓄電デバイスの性能向上に欠かせない材料であり、低炭素技術のキーマテリアルと位置づけられている。すでに、比重が鉄の約4分の1、比強度が鉄の10倍という性能をもつ炭素繊維は、金属材料に替わる軽くて強くさらにさびない高機能材料として航空機用の構造材として実用化されている。また、電気伝導性と機械的強度に優れたカーボンチューブ(Carbon Nanotube:CNT)もリチウムイオン二次電池の電極補助材として利用されている。

 カーボンナノファイバ(Carbon Nanofiber:CNF)は繊維状カーボン材料の1つであり、図1に示すように、サイズ的に、CNT、グラフェンナノリボン(Graphene Nanoribbon:GNR)、フラーレンナノウィスカ2)などナノカーボン材料と炭素繊維の中間に位置する材料である。CNTを含むこともあるが、一般的には直径が数十nmから数百nmの繊維状カーボンをさすことが多い。

図1 繊維状カーボン材料のサイズ。

 本稿では、CNFの研究開発の現状と今後の展望について、その作製法と用途展開を中心に解説する。なお、繊維工学においては、アスペクト比(直径に対する繊維長の比)が100以上の物質を繊維と呼ぶ。本稿で扱う繊維はこの定義に従う。