東京工業大学特命教授で先進エネルギー国際研究センター長、東京都市大学教授の柏木孝夫氏
東京工業大学特命教授で先進エネルギー国際研究センター長、東京都市大学教授の柏木孝夫氏
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今年で10回目を迎えたLED照明シンポジウム(旧:JLEDSシンポジウム)。節目の年にふさわしくLED照明シンポジウム2014は「未来予想図―ニッポン・あかりの未来―」のタイトルのもと様々な角度からLEDの未来を議論していきます(詳細はこちら)。基調講演は、エネルギー研究の第一人者である東京工業大学特命教授で先進エネルギー国際研究センター長、東京都市大学教授の柏木孝夫氏による「日本の未来の街づくり―スマートシティ構想による成長戦略」です。スマートシティ構想の中でLEDがどのような役割を果たしていくのか、具体的なイメージがつかめる貴重な機会となるでしょう。今回、基調講演の予告と予習を兼ねて柏木氏にインタビューを実施。スマートシティに「あかりの未来」が見えてきました。
(聞き手は、野田高季=LED照明推進協議会 事務局長)


LEDはデジタル家電であるという認識が重要

――LEDはこれまで省エネの観点から語られることが多くありました。

柏木氏 LEDの省エネ率は最新のもので白熱灯の約1/10、 蛍光灯の数分の1です。この差は非常に大きい。照明が消費しているエネルギーは、家庭部門の15%、オフィス部門の25%を占めるといわれており、照明をLEDに替えるだけで大きな省エネ効果が期待できる。LEDが節電の話題とからめて話される機会が多いのはうなずけますね。

 また2014年4月、改正省エネ法の施行は、企業へのLED普及の追い風になることでしょう。企業が朝8時から夜8時の間、電力ピーク時に消費電力を削減する取り組みを行った場合にプラス評価されることになりました。オフィスなどでも昼間にあかりをつけているところは多いですよね。企業にとって照明をLEDに替えるメリットはさらに大きくなりました。

――事業活動への影響を心配することなく省エネができるのはLEDの魅力ですね。

柏木氏 その通りです。しかしこれからのLEDの可能性を考えるとき「LEDがデジタル家電である」という認識を持つことがとても大切になります。LEDは電気を流すと発光する半導体の一種、つまり電子部品であることに注目しなければなりません。

――デジタル家電というと、デジタルTVが思い浮かびますが…。

柏木氏 テレビだけでなくLEDも冷蔵庫もエアコンも家電はデジタル家電に変わっていきます。デジタル家電はICT(情報通信技術)を組み込み、インターネットにアクセスして様々なサービスを利用できる。この点が大きな魅力ですね。暮らしをより豊かにするデジタル家電の普及に拍車をかけるのが電力の自由化です。

 なぜ電力の自由化がデジタル家電の普及につながるのか。なぜLEDをデジタル家電として認識することが大切なのか。キーワードはスマートハウスです。少し背景を説明しましょう。

――LEDとスマートハウスですか…。

柏木氏 スマートハウスの説明の前に、電力の自由化の話を先にしましょう。電力の小売り事業を自由化する改正電気事業法が、2014年6月11日に参議院で可決成立しました。今後発送電の分離が実現し、リアルタイムの電力取引市場が生まれてきます。2016年をめどに電力小売り事業への参入が自由化されるため、業種の垣根を越えて新しい電力会社が次々と登場してくるでしょう。家庭でも電力会社を自由に選べるだけでなく、「エネファーム」などの家庭用発電システムで生み出した余剰電力を売ることができます。

――2016年というと、もうすぐそこです。電力の自由化で暮らしはどのように変わりますか?

柏木氏 電気料金は供給原価に基づき料金が決められる総括原価方式ではなくなり、競争原理をもとに電気を利用する新たな時代に入ります。暮らし方も大きく変わるでしょう。例えば、家庭でも昼のピーク時に省エネし消費電気量を抑え、電気料金が高く取り引きされる時間帯に余剰電力を売れば毎月奥さんの“へそくり”が増えていきます(笑)。

 家庭で省エネするだけでなく電力に関してキャッシュの流れができる。この点がとても重要です。ボランタリーではなく家計に貢献するためモチベーションもあがります。

 しかし、課題もあります。電力の自由化のメリットを家庭で享受するためには住宅全体の消費電力量をコントロールしなければなりません。照明やエアコン、冷蔵庫などのすべての家電をリモコンなどで操作して管理していくのは大変です。