「自ら学習するマシンを生み出すことには、マイクロソフト10社分の価値がある」。

 米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は今から10年前の2004年2月にこう語った。

 その時は来た。

 米グーグルや米アップル、米フェイスブックといった先進IT企業は今、コンピュータがデータの中から知識やルールを自動的に獲得する「機械学習」の技術を駆使し、様々なイノベーションを生み出し始めている。

 これらは来たる機械学習革命の、ほんの序章に過ぎない。

 機械学習の本質は、知性を実現する「アルゴリズム」を人間の行動パターンから自動生成することにある。

 この事実が持つ意味は、果てしなく大きい。

 今後、実社会における様々な領域で「人間の頭脳を持つプログラム」が登場する一方、データの中から知識やルールを見つけ出したり、プログラムを開発したりするデータサイエンティストやプログラマーの仕事が、機械に置き換えられてしまうからだ。

 機械学習は社会や企業にどんな革命をもたらし、IT関係者の役割や活動の場はどう変わるのか。

 猛スピードで進行する革命の本質に迫る。


 コンピュータ将棋が人間のプロ棋士に勝利したその裏側で、コンピュータ将棋を開発する天才プログラマーは敗北感を味わっていた。

 なぜ彼は、勝ったのに嘆くのか。

 そこに機械学習革命の本質が隠されている。

 「機械学習に魂を売ったようで悔しい」。コンピュータ将棋「激指(げきさし)」の開発者、東京大学工学部の鶴岡慶雅准教授は嘆く。

 鶴岡准教授の「激指」は、「世界コンピュータ将棋選手権」で4回の優勝を誇る最強クラスのコンピュータ将棋だ。激指はまだプロ棋士と対戦していないが、ライバルの「GPS将棋」は2013年4月、プロ棋士の三浦弘行九段(当時は八段)を破っている。チェスに比べてはるかに複雑で難しいと言われる将棋の世界において、最新のコンピュータ将棋は今や人間のプロに匹敵する棋力を持つとみなされている。