連載の前編では、青色光は網膜に到達するために網膜損傷を引き起こしやすいこと、そして青色光を過度に浴びると人間が備える約24時間の生体リズム「サーカディアンリズム」が影響を与えることを紹介した(前編はこちら)。連載の後編ではLED照明が与え得るこうした生体への影響を、白熱電球や蛍光灯といった既存の照明と比較した。その結果、LED照明のリスクの度合いは既存の照明と同程度であることが分かった。(日経テクノロジーオンライン)


2.LED照明と「しょうがい」

LED照明とは

 照明に用いられる白色LEDには大きく分けて2種類あります。一つは、赤色、緑色、青色のLEDを同時に点灯し、3色の光を混色することによって白色の光を取り出すもので、もう一つは、紫色や青色のLEDと黄色、赤色、緑色の蛍光体の光を混色することによって白色の光を取り出すものです。現在、一般的には青色のLEDと黄色の蛍光体あるいは赤色と緑色の蛍光体を組み合わせたものが多く用いられています。(図2.1)。

図2.1 白色LEDの発光原理
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傷害レベルの計算結果

 家庭、事務所、工場、店舗などの一般的な空間において、LEDのほかに白熱電球や蛍光ランプ、HID(高輝度放電)ランプなど、いろいろな種類の光源が用いられています。これらの光源はそれぞれ異なった光のスペクトルを有しており、光の色も様々です。また、発光面積と発光部の輝度も種々異なっていますので、目への影響も光源によって異なります。

図2.2 各種光源の青色光網膜傷害のリスク比較(一例)
(注)市販製品の分光分布をJIS Z 8724にて測定し、平均的な製品のリスクの度合いをJIS C 7550に基づいて計算したもの。
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ランプ及びランプシステムの光生物学的安全性については、IEC 62471/CIE S009及びJIS C 7550:2011「ランプ及びランプシステムの光生物学的安全性」で計算方法と評価方法が定められており、青色光網膜傷害についてもこの中で定められています。

各種光源の青色光による網膜傷害のリスクの度合いを表す実効放射輝度の一例を図2.2に示します。この図は、発光面積と発光部の輝度を同じ条件にして比較した結果で、自然光(6500 K の昼光)の実効放射輝度を1とした場合の相対的なリスクの度合いを示しています。

 白熱電球、電球色の3波長形蛍光ランプと電球色のLEDランプ(青色LED+黄色蛍光体)はほぼ同等のリスクの度合いであり、自然光(6500 Kの昼光)と昼光色の3波長形蛍光ランプ、昼光色のLED(青色LED+黄色蛍光体)もほぼ同等のリスクの度合いであることがわかります。

図2.3 各種光源とメラトニン分泌抑制効果の比較(一例)5)
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 近年、メラトニン分泌抑制の作用スペクトルが提案されており、それを用いることで各種光源の作用の強さを予測することができます。照明学会の「光のサーカディアンリズムへの影響を考慮した夜間屋内照明指針に関する研究調査委員会」では、白熱電球、蛍光ランプ、電球形LEDランプの作用の強さについて、ドイツ規格協会規格の作用量予測モデル(DIN 5031-100)4)を用いて検証を行いました。その結果、以下のことが確認されました。

・光源の相関色温度が高くなるにつれて、メラトニン分泌抑制作用は強くなる。

・上記傾向は光源の種類にほとんど依存せず、LED照明の作用が従来照明と比べて特異的に高いということはない(図2.3