昨今、ブルーライト(青色光)による生体への影響に注目が集まっている。液晶ディスプレイから発する青色光をカットするメガネが飛ぶように売れ、青色光はあたかも「悪者扱い」だ。液晶ディスプレイの場合、利用者が長時間画面を見続けるために青色光の影響を受けやすい傾向にあるといえるが、はたして照明の場合はどの程度の影響があるのだろうか。特に、省エネを売りに、普及が急速に進むLED照明は、こうした影響が従来の照明に比べて小さくなっているのか、それとも大きくなってしまうのか・・・。本稿は2回に分けて、こうした疑問に答える。1回目の今回は、青色光が生体に与える影響の原因を説明する。(日経テクノロジーオンライン)


 青色光(ブルーライト)が生体に及ぼす影響について正しく理解するために、日本照明工業会、日本照明委員会、LED照明推進協議会(JLEDS)、照明学会の照明関連4団体は調査を実施し、結果をとりまとめた。青色光は正しく理解し、適切に対処すれば何ら怖いものではない。LED照明に関わるエンジニア、営業や品質保証に携わる方々、LED照明器具を使用する消費者に、ぜひご覧いただきたい。

はじめに

 あかりは人類の文化的かつ健康的な生活に大きく寄与してきました。しかし、強すぎる光は、生体および人体(以下、「生体」と略す)に影響を与えることがわかっています。自然な光である太陽光ですら、過度の日焼けが火傷になったり、「皆既日食の観察には、太陽を直視せず正しい保護メガネを付けましょう」と言われたりします。また、心理的な効果として、「ポケモンショック」と言われた事件がありましたが、ある周波数域での明暗の繰り返しが、光過敏性発作を起こすことがあります。

 重要な点は、生体に与える影響項目毎に、その光が強すぎるか否かを正しく知ることです。

1.自然光、人工光を問わず、光を正しく測定し、その値に基づいて、正しい対処をすること

2.光が生体に与える影響(症状)は、さまざまであり、それぞれの対処法が必要であること

 光を正しく測定することとは、光を波長毎(色毎)に分けて数値化することです。それを示したグラフを「光スペクトル」と言います。あらゆる光源は光スペクトルで特定することができます。 自然光源としては、太陽光、月光、炎、蛍の光などありますが、照明器具に使用される人工光源としては、白熱電球、蛍光ランプ、LEDの3つが代表的です。

 この3種類の照明用光源は、それぞれ発光原理が異なりますので、その光スペクトルは異なります。

 光源による光スペクトルの差を比較する場合、例えば人間の眼に入る光を測定する場合は、ディスプレイなら直視配置、天井照明ならば視線の上方に配置など、光源の位置と眼の位置をモデル化し、再現性ある数値を得ることが必要です。

 次に、生体への影響を考える場合は、光の波長によって各部位((眼、皮膚、脳(生理的))の反応(感度)が異なりますので、光の波長毎の感度を示した「作用スペクトル」を得ることが必要です。

 作用スペクトルを定めることができれば、光スペクトルと作用スペクトルを掛け合わせることで、モデル条件下の光源が生体反応をどの程度引き起こすかの「指標値」が算出できます。実際には、その状態に曝されていた「時間」を掛けたものが影響量に相当します。

 この指標値と症状の度合いに応じた区分を決め、区分毎に表示や防護をすることと、区分が下がる製品設計をすることが生体の安全・安心を図る基本の考え方です。

 光に対する生体安全性に関して、現在7種類の作用スペクトル(傷害)についてリスク評価の方法、区分がJIS規格により規定されています。サーカディアンリズムに関しては国際的に医学・生物学・環境工学の観点で重要な作用から順にさらに検討が続けられています。

 生体への影響は、大きく以下の2つに分けられます。

 ① 傷害(細胞が損傷を起こし、ひどいと細胞が復元されない):網膜傷害など

 網膜剥離傷害については、既に光スペクトルの測定方法、リスクランク区分が規格化されており、リスクランクに応じた対応が規定されています。

 ② 障害(心理的作用を引き起こす):サーカディアンリズム障害など

 サーカディアンリズムを乱すことによる睡眠障害は、近年研究が活発になってきています。但し、心理的な影響もあり、個人差もあって、定量化は難しい状況です。

 サーカディアンリズムについては、脳を覚醒・活性化させるために明け方から昼過ぎまで青色光の多い光を浴び、睡眠促進させるために夕方以降は青色光の少ない光を浴びる方が良いということが判ってきています。

 まとめますと、光源の種類を問わず、極度に強い光を浴びることに対して注意が必要なことは言うまでもありませんが、生体に対する光の傷害については、光を正しく測定し、その値に基づいて正しく対処することが重要です。サーカディアンリズムからは「適度な青色光を適切な時間帯に浴びることは好ましい」ということであり、青色光がすべて悪いという訳ではありません。自然光にも青色光が含まれています。

 詳細は次項以下を参照下さい。

1.光放射の効果と影響

 生体に及ぼすリスクのことを表わす専門用語に「しょうがい」という用語があります。日本語では、この「しょうがい」に対する漢字用語が2つ-「傷害」と「障害」-があります。「傷害」と「障害」とは、読みが同じ「しょうがい」であり、共にリスクに関係している用語なので、区別されないで使用される場合もありますが、専門用語的には異なった概念を表しています。それらをまとめると表 1.1の通りとなります。

 即ち、(光放射(光)の)生体への「しょうがい」(リスク)は、生体に損傷を及ぼす場合(傷害)と機能に支障を来たす場合(障害)とに区別されます。

表1.1 生体に対する「傷害」と「障害」の定義
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