患者との価値共創の時代へ

 もっとも、このようなムーブメントを10年以上も前に予期していた人がいました。それは、長年にわたりミシガン大学ビジネススクール教授として教鞭を取りながら、数多くの国際企業のコンサルタントをし、自身でもIT企業を経営した経験を持つ故C.K.プラハード氏です。「コア・コンピタンス経営」(ゲイリー・ハメル氏との共著)や「ネクスト・マーケット」などの著書でご存知の方も多いかと思います。

 2004年に「価値競争の未来へ」というタイトルで翻訳出版されたという書籍では、コ・イノベーション経営という新しい経営のあり方が提示され、従来の企業を中心とした価値創造から、消費者と一緒になって新しい価値創造とイノベーションを実現する「価値共創(コ・クリエーション)」の時代の到来を示唆しています注2)
注2)2013年に「コ・イノベーション経営: 価値共創の未来に向けて」というタイトルで東洋経済新報社より復刊

 紹介されている事例の1つとして、ヘルスケア業界における心臓ペースメーカーと心臓疾患の患者との価値共創とそれを支える複数の関係者のネットワークが示されています。このケースにおいて、顧客としての患者が受け取る価値とは、プロダクトとしてのペースメーカーから生まれるのではなく、特定のタイミングでイベントや場所に関連した患者個人としての共創経験から生まれるものであると説かれています。また、複数の企業(ペースメーカーをノード企業とする協働ネットワーク)が、この共創経験を実現するための環境を患者に提供していることを表しています(図2)。

図2 患者を中心としたコ・クリエーションのネットワーク
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 このような時代への移行の背景として、(1)テクノロジー融合とデジタル経済の進化、(2)グローバリゼーションと規制緩和による業界や国境の垣根の低下、(3)インターネットやソーシャルメディアの進展による企業と消費者間の情報格差の縮小、などが挙げられるでしょう。