連載再開以来2回にわたり、イノベーションに挑戦するに際して、今の我々がいかに厳しい状況にあるかを述べてきた。しかし、これを嘆くだけでは何も始まらない。今回からは連載のテーマである「人と組織のイノベーション力をいかにして高めていくか」について、実践論に入る。

 それに協力してくれる人がいる。ニチアス浜松研究所研究開発部門グループリーダーの佐藤清さんだ。ニチアスは断熱材やシール材を企業向けに製造販売している、BtoBの企業である。佐藤さんはもともとセラミックスが専門の材料技術者だが、今は断熱材料を含めて研究開発のマネジメントを担当する、ニチアスの研究開発を最前線で支える人である。

 佐藤さんは筆者の『ホンダ イノベーションの神髄』を読んで、自分たちの研究開発の現場に何かが欠けているという想いが募り、編集部を通じて筆者に声を掛けてくれた。そして我々は意気投合し、イノベーションを巡って何時間も語り合った。

* 同書は、本誌の2010年4月号から2012年3月号まで連載した「ホンダ イノベーション魂!」を基に一部加筆修正し、単行本として日経BP社から発行したものです。

 ここから数回は、佐藤さんとの語り合いの内容を基本に、「イノベーションにおける人と組織について考えていく。まずは人、つまり個人の能力から話を始めたい。その点について、佐藤さんに問題意識を語ってもらおう。