ビッグデータやラボオンチップを活用

 CIBiSでは、具体的にはどのような研究テーマを手掛けるのだろうか。CIBiSを構成する4つの研究部門として酒井氏が紹介したのは、(1)基礎応用研究分野、(2)産業応用研究分野、(3)臨床連携研究分野、(4)応用探索研究分野。それぞれを担当する教員・研究者が登壇し、その概要を説明した。

 (1)の基礎応用研究分野では、「定量的・網羅的解析と数理工学の融合」に取り組む。次世代シークエンサーなどから得られる膨大なデータ(ビッグデータ)を活用し、数理工学を駆使して「動的で多様な生命現象を理解し、定量的に予測したり制御したりできるようにする」(基礎応用研究分野を担当する、生産研 准教授の小林徹也氏)。細胞の増殖や進化における適応機構の理解が中心テーマの一つという。がんの発生動態や薬剤耐性を獲得する機構の解析などだ。

 (2)の産業応用研究分野では、「創薬・疾患解明・治療効果予測のための細胞デバイス」を研究する。代表例の1つが、マイクロ流路デバイスと呼ぶ微小流路を備えた集積型デバイスを、細胞の培養に応用する取り組みだ。この分野を担当する生産研 教授の藤井輝夫氏は、“Body On a Chip”の構想を紹介した。人間などの臓器由来の細胞をチップ上で培養し、吸収・代謝・排泄といった生体の機能を再現する試みである。

産業応用研究分野を担当する生産研 教授の藤井輝夫氏
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 この他、「疾患組織工学」と呼ぶユニークな研究にも取り組む。これは「正常な状態と疾患の状態、この間にどのような過程があるかを見える化する」(生産研 講師の松永行子氏)というもの。研究テーマの一つに、がんの転移現象の可視化がある。がんと血管の相互作用を再現するデバイスを作り、がんが血管内にどのようなプロセスを経て侵入し、他の臓器に転移していくかを明らかにする。