日本遠隔医療学会の元理事長で、電子技術や通信技術の動向にも詳しい医師の村瀬澄夫氏は今、三重県四日市市のショッピングモール「イオン四日市尾平店」で小さなクリニックを営んでいる。認知症患者を主な対象とする「むらせシニアメンタルくりにっく」である。開業前、同じ三重県内の東員病院・認知症疾患医療センターの院長を務めていた村瀬氏は、「生活の場」により近い場所で認知症患者と日々向き合うようになった。認知症患者を支える地域医療が抱える問題とは何か、その充実に向けてどのようなITツールやシステムが求められているのかを同氏に聞いた。

(聞き手は大下 淳一=日経デジタルヘルス)

――クリニックを開業した経緯を教えてください。

村瀬澄夫氏。「むらせシニアメンタルくりにっく」にて。
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 病院という場で認知症患者と向き合う中で、「病院に来ない患者」に対して何ができるだろうとずっと考えていました。病院は「治療」のための施設であって、患者にとって「生活の場」ではありません。入院を余儀なくされた認知症患者は、その意味で日常から隔絶されてしまうのです。入院をきっかけに、家族との関係が実質的に切れてしまうケースも少なくない。

 対して、介護は「治療」とは違います。そこでは認知症患者の日常生活をそれぞれの生活の場でどのように支援していくか、という視点が中心になる。

 在宅や施設の認知症患者にどのような介護を提供するか、そしてそれをどのように医療へつなげていくか。このような「医介連携」は地域包括ケアの中核を担うはずの取り組みなのですが、その仕組みが日本全国どこにおいても、まったくと言っていいほど整っていません。

 医介連携を支えるのは、医師や看護師、ケアマネージャーを円滑に連携させるためのコミュニケーションシステムです。ところが、そこに向けたクラウドや電子カルテの仕組みがなかなか整わない。介護記録をタブレット端末に取り込み、それを医師と共有する。例えばそうした形の情報共有システムでさえ、標準化が進んでいません。