――認知症ならではのケアの難しさはありますか。

 医介連携によるケアの対象として、認知症はかなりハードルが高いと感じています。身体的な機能が弱っている高齢者はすぐさま介護サービスの対象になりますが、「身体は元気だけど認知機能だけに問題がある」という患者も少なくありません。そうした患者は、現行の介護サービスでは十分に対応しきれない。認知症はその症状が重いほど、本人にその認識が薄いという難しさもあります。

 そして認知症患者を対象とする場合、“心の看護”が非常に大きなウェイトを占める。患者の精神をどのように安定に保っていくか、という視点が欠かせないのです。

 本人の介護だけでなく、家族関係や生活環境の調整が必要なことも認知症のケアの難しさです。認知症に対して、社会的な理解が十分に得られていないという側面も大きい。環境的、社会的な側面を含めてサポートしていかなければなりません。

――そうした認知症患者のケアに、電子技術や通信技術が入り込む余地はありそうですか。

 大いにあると思います。そもそも介護という分野は、医療と違って既得権が少ない。自由度の大きい分野であり、その分、技術革新の余地も大きいのです。システムをゼロから組もうと思ったときに、最新のテクノロジーを導入しやすいという側面がある。新興国では、有線の電話網ではなくて、いきなりケータイが普及しましたよね。あれと同じことが起こる可能性があるわけです。

 例えば、離床センサーは、徘徊防止用センサーとして有効に使えると思います。都会では防犯カメラが発達していて、顔認識機能も実装できますよね。これも徘徊防止などに使えるでしょう。

 ただし、どういうシステムが認知症のケアに本当に有効であるかは、これからの検討課題だと思います。遠隔医療に深く関わっていた頃、テレビ会議システムを使ってみたりもしたのですが、システムを使いこなすのが結構大変だったりする。ケータイで話す方が早いわけです。今はスマートフォンがありますから、これをシステムのプラットフォームとしてどう使うかは考えどころだと思います。

 今関わっている仕事は、遠隔医療に比べるとかなり「アナログな仕事」。残念ながら、うちのようなクリニックがシステム構築の主体になることは難しい。システムを開発するリソースを持った企業の方々に、ぜひ医介連携にふさわしいシステムを共に考えて頂きたいと思います。

クリニックの前で。待合室は壁面に動植物のイラストなどが描かれ、リラックスできる空間。
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