実物がないと評価できない

 なぜ、試作に取り組む企業が増えているのか。このことを考える前にあらためて、試作のメリットとデメリットを整理しておこう。

 まず、メリットは何よりモノを介在して評価できるという点だ。モノを手にし、いろいろな方向から見たり触ったりすることで形状はもちろん、サイズ感や触感といった実物でなければ分からない評価が可能になる。一方、デメリットは上述した通り、試作品というモノを作る工程が入り込むために期間もコストもかかるという点だ(図2)。

図2●従来の試作に対するイメージ
人間の感性に関する項目を評価できるのはメリットだが、試作に必要な期間やコストはデメリットだと考えられてきた。

 このデメリットを解消するための取り組みが試作レス、すなわちCAEや3D-CADを用いたデジタル評価だった。実物が介在しないために評価には限界があるものの、モノを作る工程を省くことで開発期間短縮やコスト削減に威力を発揮する。試作レスではこのメリットをことさらに強調し、実物を作るのを極力やめようとしたのだ。

 しかし試作レスには、「コストを重視する余り、行き過ぎた部分があった。そこで今、その反動で大手メーカーを中心に試作が見直されてきている」〔3Dプリンタなどを販売するケイズデザインラボ(本社東京)代表取締役の原雄司氏。

 事実、デジタル評価は試作よりも期間とコストの両面で有利な点が多いが、決して全ての評価をカバーできるわけではない。とりわけ最近の製品に求められる付加価値は高度化しており、デジタル評価が年々進化しているとはいえ(別掲記事参照)、実物を伴った試作でなければできない評価項目が増えてきているのだ。

  このことを実感している企業がある。音や振動に関するソリューションを提供する小野測器だ。「顧客企業における製品開発の方針変化に伴い、ここ5年くらいで音と振動を調べる目的が大きく変わり始めている」(同社技術本部カタログ製品ブロック・コンサルティンググループ・グループマネージャーの石田康二氏)という。

 例えば、音。以前の評価は主に「大きさをいかに減らすか」だったが、それに加えて「人が聞いたときに心地良いか」「高級感を感じるか」といった感性にかかわる項目が増えているという。大きさの場合はCAEで評価できるが、感性の場合にはCAEだけでは難しく、そこには必ず試作品による実験が必要となるのだ。

 試作が見直されてきている1つの理由は、こうした感性のように、実物を用いなければ評価できないケースが増えてきている点だ。加えて、もう1つ大きな理由がある。試作のデメリット、すなわち期間とコストを克服する技術やサービスの登場である。