試作はここ四半世紀ほど、削減されるべきものと考えられてきた。デジタルデータによるシミュレーション主導の設計開発に比べ、手間とコストがかかるからだ。しかし、試作はなくならなかった。それどころか、新たな役割を得て、復活する兆しが見える。今、使う人の“感性”にマッチするという、新たな価値を目指す製品も増えた。デジタルデータでは造り込みきれない価値も、試作と評価の工夫によって実現できる。さらに、3Dプリンタの登場などの試作技術の進化により、弱点だった手間とコストの問題が軽減されつつある。新たなテーマの試作で製品力を高め、高速な試作で開発力を強くする。パワーアップした試作に取り組む企業が増えている。 (中山 力、木崎健太郎)
パワーアップする試作
製品力を高く、開発力を強く
目次
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[事例分析]試作部門がマザー工場に、評価前倒しで世界同時立ち上げ
ジヤトコ
変速機メーカーのジヤトコは、連結決算上の親会社に当たる日産自動車とともに開発プロセス改革活動「V-3P*1」に取り組んだ結果、以前よりも開発期間の短縮が進み、試作の回数が減った*2。変速機をはじめとするパワートレインの開発期間は車体よりも少し長く、以前には24カ月だったところが、現在では14~16カ…
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[事例分析]設計者自ら3Dプリンタ操作、アイデアを直ちに現物化
サーモス
飲料ボトルやステンレス製魔法瓶、真空保温調理器具などの家庭用品を開発するサーモス(本社東京)。2006年に本格的に3D-CADを導入したのに伴って、大幅に試作環境が変わった。3Dプリンタを導入したのである。
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[事例分析]CAEで扱えない感性を測定、音の心地よさを作り込む
小野測器
音響や振動に関する検討は、試作品でも実機でも、現物を測定することが必要になることが多い。これまでも静音化は自動車や家電製品をはじめ、さまざまな製品で実行されてきたため、現物がなくても静音化はある程度可能だ。しかし、音がユーザーに与える印象や心地よさ、あるいは不快さといった、ユーザーの感性に関わること…
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[事例分析]一歩先行く検証を掌中に、液体の出し入れ感にこだわる
ライオン
洗剤などの容器を開発するライオンの包装技術研究所。10数年前は試作品による検証は行っておらず、「2000年ごろから試作品による評価が始まった」(ライオン研究開発本部包装技術研究所副主席研究員の中川敦仁氏)。
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[事例分析]3Dプリンタで膨大な試作、使いやすさを徹底的に刷新
トンボ鉛筆
トンボ鉛筆が2013年3月に発売した修正テープ「MONO ergo(モノエルゴ)」。金沢大学教授の柴田克之氏と共同開発した製品で、使いやすさを人間工学(エルゴノミクス)の点から突き詰めた。その形状決定のプロセスでは、試作が大きな役割を果した。
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[動向分析]コストと期間のハードル下がる、実物で“尖った”特性を評価
「実際のモノを手にしないと、分からないことがある。特に形状や触感などの情報は、明らかにモノがあった方が理解しやすい」。こう語るのは、ライオン包装技術研究所副主席研究員の中川敦仁氏だ。冒頭の言葉を裏付けるかのように、同社では洗剤などを充填する各種容器の開発時に作る試作品の数がここ10年で約3倍に増えて…