日本生体医工学会の「ユビキタス情報環境と医療システム研究会」会長でもある湘南工科大学の保坂良資氏
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 2014年6月5~7日に岡山市(岡山県)で開催された「第18回日本医療情報学会春季学術大会」(主催:日本医療情報学会)のポスター発表で、湘南工科大学 工学部 人間環境学科 教授の保坂良資氏が、920MHz帯のパッシブRFIDタグを使ったリストバンドタグによる患者追跡の実証実験について発表した。従来の13.56MHz帯RFIDタグの課題を解決し、臨床現場での患者認証の実用性と電磁的安全性を明らかにした。

従来のRFIDタグの認証域の小ささを解決

 新型リストバンドタグの開発・実証実験の目的について、保坂氏は次のように述べた。「医療現場でパッシブRFIDタグを使った人(看護師、患者)・モノ(薬液など)の個体認証システムの開発・導入は、秋田大学附属病院が2004年に病院全体で導入したケースがある。非常に実用性が高いものだったが、当時のタグは13.56MHz帯であったため、認証域が小さいという課題があった。それを補えるものを開発するという動機で始まった」。

 その上で、新型リストバンドタグについては以下の4つの目的を示した。すなわち、(1)臨床応用を前提とした920MHz帯パッシブRFIDタグによる新型リストバンドタグを開発する、(2)臨床現場での運用特性を明らかにし、実用性を評価する、(3)臨床現場での利用における電磁的安全性を評価する、(4)新型リストバンドタグに適した低出力で安価なハンディリーダーを試作する、である。

実証実験では10mm厚のウレタンフォームで生体からの分離装着を実現したが、清潔性を考慮してポリエチレン製クッション(タグの右側)を既存のリストバンドに装着する構造とした。920MHz帯RFIDタグは、患者の腕が布団の中にあっても認証可能という
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 920MHz帯パッシブRFIDタグによるリストバンドタグの開発で重要なポイントは、タグ自体を患者に装着した際に生体から浮かせること。「高周波帯のRFIDタグは、生体に密着するほど減衰が発生し、認証域が縮小する。生体近隣による損失回避のため、10mm厚のウレタンフォームにタグを装着することで、患者の前腕から離す構造とした」(保坂氏)。実証実験フィールドである札幌医科大学附属病院 看護部の助言の下でデザインした新型リストバンドタグは、このタグ部分を既存のバーコードリストバンドに装着することができ、既存資産の活用で安価に提供できるという。具体的には、ICチップを含むタグ部分で約100円である。

循環器内科病棟出入り口と放射線外来廊下の床上2.4mに設置したRFIDアンテナ
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 実際の実証実験は、同病院の循環器内科病棟出入り口と放射線外来の廊下に、床から2.4mの位置にRFIDリーダーアンテナを設置。パッシブRFIDリーダーから、1W、0.5W、0.25Wと出力調整して、各アンテナで右前腕に新型リストバンドタグを着用した被験者を検知できるか検証した。

 「病棟出入り口では、左右2カ所にアンテナを設置し、左右1チャネル分離動作の場合、出力1Wで全数が認証、0.5Wではタグが体幹部に隠れると認証されず、0.25Wでは全数が認識されなかった。両側2チャネル動作の場合は1Wおよび0.5Wで全数認識された。また、放射線外来の廊下では、1台のアンテナで1Wと0.5Wで全数が認識された。実験結果から、患者さんが新型リストバンドタグを着用すれば、出力0.5Wのリーダーで院内追跡できると考えられる」(保坂氏)と考察した。