同一疾患リスクの評価が2社で異なるケースも

 もっとも現在のところ、DTCサービスは発展途上の段階だ。「『分析の質』も『科学的根拠』も『情報提供の適切さ』も担保されていない」と札幌医科大学医学部遺伝医学の櫻井晃洋教授は話す。経産省が2014年1月から2月にかけて開催した「遺伝子検査ビジネスに関する研究会」(座長は京都大学医学研究科社会健康医学系の小杉眞司教授)でも、DTCサービスに関してその3点が重要な課題として挙げられた(図2)。

図2 DTCサービスの主な課題(図:日経バイオテクが作成)
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 中でも多くの識者が「大きな問題だ」と指摘するのが科学的根拠だ。アルゴリズムの構築に当たり、どのような論文を参照するかはサービス提供企業によってさまざまなため、同じ骨粗鬆症の罹患リスクを割り出すにしても、ある企業はエストロゲン受容体αとインターロイキン6のSNPを、別の企業は骨グラたんぱく質(BGLAP)とビタミンD受容体のSNPを解析するといったように、解析対象が異なるケースは珍しくない。欧米人だけを対象とする研究論文に基づいてアルゴリズムを組み立てていたり、中には細胞レベルの研究論文まで根拠に用いるところもある。

 あるサービス提供企業の担当者も「2社のDTCサービスを受け『同じ評価項目なのに異なる評価結果が出た』と混乱して電話してくる利用者がいた」と明かす。参照した論文や対象集団、解析対象のSNP、SNPの頻度など科学的根拠を利用者にどこまで示すかも含めて、サービス提供企業次第なのが現状だ。

 DTCサービスを規制し、分析の質や科学的根拠などを担保するための法律は存在しない。経産省製造産業局生物化学産業課の江崎禎英課長は「遺伝情報は有効利用できる可能性がある。今のところ、大きな問題が起きているとは考えておらず、法律などで厳しく規制するというのにも抵抗がある」と打ち明ける。経産省は当面、業界の自主的な取り組みなどで分析の質や科学的根拠、情報提供の適切さを担保していきたい考えだ。

 業界も手をこまねいていたわけではない。NPO法人個人遺伝情報取扱協議会は08年3月、「個人遺伝情報を取り扱う企業が遵守すべき自主基準」を公表。DTCサービスを手掛ける企業に対して、論文の選択基準について見解を示すなど、科学的根拠を明確化するよう求めてきた。ただ、同協議会で理事を務めるG&Gサイエンス営業部学術営業課の武安岳史課長は、「DTCサービスの取次・代理店など関係企業の中には、自主基準の存在を知らないところもあった。我々の取り組みが健全な育成に十分寄与できていなかった面もある」と振り返る。

 同協議会は現在、経産省の協力を得て自主基準を改訂するとともに、外部の識者を交えて認定委員会を立ち上げる。関係企業から提出された書類を基に、分析の精度管理手法や評価結果の科学的根拠などを審査して、個々の企業を認定する予定だ。こうした取り組みが認知され、業界に広がれば、事実上野放しにされてきたDTCサービスに一定のチェック機能が働くことになりそうだ。