今から14年前の2000年、ウェアラブル環境情報ネット推進機構(WIN)を設立し、産官学でウエアラブル・センサー・システムの研究開発を推進する体制を構築したのが、WIN 理事長で東京大学 名誉教授の板生清氏だ。2014年6月11日に開催されるデジタルヘルスAcademy「『ウエアラブル』の本質を議論する」で「生体現象をセンシングすることで得られる医療データとは何か ~その活用による新サービスの創出~」と題して講演する同氏に、ウエアラブルについての考えなどを聞いた。

(聞き手は小谷 卓也=日経デジタルヘルス)


――長年、ウエアラブルに取り組まれていますが、ここ最近のウエアラブルの盛り上がりをどう見ていますか。

ウエアラブル
板生氏

 ようやく動きだそうとしている雰囲気だ。しかし、重要なポイントの研究・開発がまだ追い付いていないと考えている。それは、「ヒューマンファクター」だ。

 人間の特性を熟知し、ウエアラブルという“機械”に違和感なく触れてもらうための研究・開発である。これは、介護ロボットの分野でも同様に必要な要素であり、研究・開発が遅れているテーマだ。こうした要素を取り込んだものを、私は「環境ウエアラブル」と定義して、その研究・開発を進めている。

――ウエアラブルの研究・開発において、その他に着目している点は何ですか。

 「首」だ。

 現在は、リストバンド型やメガネ型といったウエアラブル端末が続々と登場している。ただし、手首や眼ではセンシングは可能であるものの、その後の“アクション”ができない。

 これに対して首であれば、そこで温度や心拍、発汗などのセンシングが可能であることに加え、冷やしたり温めたりすることで人の快適度や具合などの制御ができるのが特徴だ。つまり、センシングとアクションが同時に実施できる場所として、首に何らかの形で装着するウエアラブル端末に注目している。

――ウエアラブル市場の拡大に向けての課題についてはどう考えますか。

 ウエアラブルビジネスの観点では、まだ“儲かる”構造ができておらず、産業になっていない。医療費の抑制などの社会課題の解決に向けて、ウエアラブルを活用した予防医療といったものは必ず必要になる。それを、きちんと産業として成立させられるような施策や仕組みの構築が求められる。

 また、いわゆる医療とのグレーゾーンの領域である場合、大手企業は保身に走りがちで、なかなか積極的な取り組みにつながらないこともある。その点では、ベンチャー企業の役割は重要になるだろう。