自由に曲げられる樹脂基板を用いたフレキシブル・ディスプレイの開発は「薄型・軽量・割れにくい」を目指す形で既に始まっている。その先には「貼り付け可能なディスプレイ」がある。まず反射型で実用化が始まる。さらに、自発光型の有機ELでカラー動画対応を目指す。

 身の回りのあらゆる物にディスプレイを貼り付け、そこに映像を表示させ、物の外観を自由自在に塗り替える。例えば、家の壁や床を森林浴モードにしたり、海辺のリゾート・モードにしたり─。壁や床などの平面だけでなく、家具やカーテンといった凹凸のある表面や柔らかい物の表面にも貼り付けられる。このような斬新な用途を実現可能にするディスプレイ技術の開発が進んでいる。

 貼り付け可能なディスプレイに向けた技術開発は「薄型・軽量・割れにくい」を目指す形で既に始まっている。基板をガラス板から合成樹脂(プラスチック)の板に替えるのだ注1)。さらに、将来はプラスチックの板を薄くしてフィルム状、いわゆるフレキシブル基板にすることで、形状を平面以外にも自由に変えられる「貼り付け可能なディスプレイ」にする(図1表1)。

注1)ディスプレイの薄型・軽量化や曲面形状の実現に向けては、ガラス基板を研磨して薄くする方法もある。例えば、台湾Industrial Technology Research Institute(ITRI)と米Corning社は共同で、厚さが100μmのガラス基板上にロール・ツー・ロールで回路を形成する技術を開発している。また、篠田プラズマが開発した曲面ディスプレイのように、ガラス管を並列に配置して平面を構成したものもある。ただし、あらゆる形状の物体に貼り付けられるほど薄いディスプレイを実現するためには、プラスチック基板が最も適している。そこで本稿では、プラスチック基板を用いたディスプレイについて議論する。なお、プラスチック基板を用いたパッシブ・マトリクス駆動のディスプレイは以前からあるが、本稿では高精細・高画質表示に向くアクティブ・マトリクス駆動のディスプレイに焦点を合わせる。
図1 “貼り付け可能”な直視型ディスプレイの技術開発
貼り付け可能な直視型ディスプレイの技術開発は「薄型・軽量・割れにくい」を目指す形で始まっている。ここに来て、基板をガラスからプラスチックに、バックプレーンのTFTをSi系から酸化物系や有機物系に替えたディスプレイの実用化が始まりつつある。基板のプラスチック、バックプレーンのTFT、フロントプレーンの有機ELなどの性能を高めていくことで、貼り付け可能なディスプレイを実現していく。
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表1 2012年6月以降に発表された主な開発事例
「薄型・軽量・割れにくい」を目指した、曲げられるディスプレイが盛んに開発されている。2012年6月以降に学会や展示会などで発表された、アクティブ・マトリクス駆動ディスプレイの代表的な開発事例を示した。*1は、米Arizona State University。*2は、2013年4月に25ppiのアクティブ・マトリクス駆動での発光を実証しており、2013年秋に100ppiのディスプレイを開発予定。
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 形状を変えたディスプレイとしては、2013年に入って韓国メーカーが相次いで、画面が湾曲した有機ELテレビを発売した1)。ただし、湾曲した画面の形状は固定されている。一方、貼り付け可能なディスプレイは形状を自由に変えられることから、さまざまな曲率の面に貼り付けられる。