3D-CADの普及が進んだ現在でも、2D図面が必要となる場面は多い。3Dモデルは形状を確実に伝えることができるが、ものづくりに必要となる情報は形状だけではないし、製品設計で作成した形状と金型設計などの後工程で必要となる形状が異なる場合もあるからだ。

 そのため、3Dモデルにさまざまな情報(製品特性や管理情報など)を追加した3D単独図(以下、3DAモデル)の概念が生まれた。この3DAモデルを活用することで、例えば3Dモデルと2D図面を併用するという無駄がなくなる。

実証プロジェクト

 近年、電機や自動車などの各業界が、3DAモデルを普及させようと活動している。そんな中、3DAモデルの効能と課題を検証しようという取り組みが始まった。電機・精密業界の団体である電子情報技術産業協会(JEITA)の三次元CAD情報標準化専門委員会ではこれまで、3Dデータ活用のガイドラインを発行するといった取り組みを続けてきた(別掲記事参照)1)。そのJEITAが発行した、もしくは今後発行しようとしている規格やガイドラインに沿って、実務ベースで効果や課題を明らかにしていこうという実証プロジェクトだ。

 実は、既にJEITA加盟の各企業では3DAモデルの活用が始まっている。しかし、各社での活用は開発中の製品データ、つまり機密情報が含まれているため公開できない。そこで、「JEITAの活動として実証プロジェクトを実施すれば、その結果を共有し、規格/ガイドラインの改訂へと結びつけることが可能になる」(JEITA三次元CAD情報標準化専門委員会実証プロジェクト/共同活動リーダーの高橋俊昭氏)と考えたわけだ。

金型設計と部品検査に注目

 今回の実証プロジェクトでは、製品設計と金型設計、部品検査の3工程を対象とした(図1)。製品設計から金型設計や部品検査の各工程に3DAモデルで情報を伝達した場合に、どのように業務が改善されるかを明確にするのだ。

図1●実証実験を行った工程の位置付け
3DAモデルで伝達する情報の流通範囲は広い。今回は、製品開発と金型設計、部品検査の3工程の作業に注目し、これらが3DAモデルの活用によってどのように変わるのかを検証した。
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 例えば、金型設計工程では、出図後の製品設計者との打ち合わせが不要になったり、不具合による型設計の変更を無くしたりできるはず。部品検査工程では、公差を満たしているかどうかを示すカラーマップを非接触測定によって自動作成して評価するといった効果が見込める*1

*1 なお、本来であれば、製品設計工程における効果も期待できるが、次回の実証プロジェクトで評価する予定。

 実証プロジェクトにおける具体的な作業の流れは次のようになる(図2)。まず、製品設計において、JEITAが作成した「3DAモデルガイドライン Ver.3.0」に基づいて3D-CADで製品形状をモデリングする*2。ここでは形状だけでなく、金型設計に必要な要件も組み込んでいく。

図2●実証実験の3工程の関係
製品設計では、金型要件を盛り込んだ3DAモデルを作成し、それを受け取った金型設計担当者が実際に金型を設計してみる。一方の部品検査では、製品設計で作成した3DAモデルに基づいて樹脂部品を測定し、3DAモデルの形状データと比較することで精度を評価する。
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*2 正式名称は、「JEITA 3DAモデルガイドライン――3DAモデル作成及び運用に関するガイドライン――Ver.3.0」。公開は2013年9月だったため、実証プロジェクトでは暫定版の内容に基づいた。

 その際に参照するのが、「3D単独図 金型工程連携ガイドラインVer.1.0」だ*3。同ガイドラインでは、金型要件(金型設計で必要となる情報)の3DAモデルへの盛り込み方を幾つかのランクで定義している。従来は金型メーカーが2D図面を見たり、製品設計の担当者に問い合わせたりしながら決めていたことを、どの程度3DAモデルで指定するのか、伝える方法は注釈なのか具体的な形状なのか、といったことを決めてあるのだ。

*3 正式名称は「JEITA 3D単独図 金型工程連携ガイドライン―『製品設計』と『金型設計・製作』間での3D単独図の有効な活用方法ープラスチック部品編 Ver.1.0」。2012年7月に制定、同年10月に公開された。