グローバルに1つの“日本品質”

 最近、筆者は国内で製造業関係のコンサルティング会社が開催したイベントに出席した。そこでさまざまな日本メーカーの発表を聞いて、びっくりしてしまった。現地の作業員の反発をいかに抑えたかとか、日本の5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)を教え込むのに大変な苦労があったとか、要するにいかに現地の人を日本流のものづくりに慣れさせるかに四苦八苦した、といった発表ばかりだったためである。

 筆者はそれを聞いて、日本メーカーにはそもそも考え方の前提から思い違いがあるのではないかと感じた。つまり、新興国の工場を日本と同じプロセスにして、同じようなものを造ろうという立場そのものに違和感を覚えたのである。

 洗濯機に例を取ると、日本も第2次世界大戦後は初めて洗濯機を買う人に向けた手動の1槽式の洗濯機から造り始めて、やがて2槽式、全自動式と進化していったはずだ。ところが、現在の日本メーカーは何でも造れるわけではない。

 筆者は実際、日本の大手家電メーカーの社員に「手動の1槽式洗濯機を造れるか」と質問したことがあるが、「そんな古いものは造れない」という答えが返ってきた。設計・生産のプロセスも、部品メーカーや加工メーカーを含めたサプライチェーンも全自動式に対応しており、手動の1槽式など造り方も分からないという。2槽式も同じことであろう。すなわち、インドや中国でこれから洗濯機を持とうとするユーザー層に適した1槽式や2槽式については、日本メーカーは何もできないことになる。

 要するに、日本メーカーの多くは品質面でも機能面でも、高級品を造る能力しか持っていない。やろうと思えば高級品でないものを1台や2台造ることは可能かもしれないが、製品として何万台も製造する体制を整えられるだろうか。ニーズが変わればそれに対応するプロセスは異なるはずなのに、日本は松竹梅を造り分けることができず、ただ1つ「松」のプロセスしか持たない。その1つしかないものを全世界に売り歩こうとしている。

 このことはまた、新しい技術が「松」を生み出しても、それだけでは競争優位をもたらさないことの説明にもなっている。技術面でのイノベーションがなくても、既存の技術を組み合わせてワクワク感、ドキドキ感を出せば、それが優位につながることは、本連載の前回までに述べた通り、Samsung Electronics社が得意とするところだ。