日経ものづくり

第1回:「観察」をビジネスに役立てる

越野孝史=エルネット マーケティングソリューション推進部長
2014/04/29 06:00
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 私の勝手な想像ですが、多くの読者の皆さんは、製品の性能あるいは機能の測定や検証などのために日々、数字と格闘されているのではないでしょうか。優れた製品を生み出すためには、測定や検証を通じて定量的なデータを得ることはとても重要です。しかし、本稿では、そうした数字をあえて扱いません。では何を扱うのかというと、製品にまつわる「観察」、中でも人(ユーザー)の「行動」についての観察を取り上げます。

 観察というと、皆さんがまず思い浮かべるのは、小学生の時に学んだ理科ではないでしょうか。アサガオの成長やオタマジャクシの生態、化学反応の実験など…。事実を知るには、まず観察すること。それは、皆さんが技術者になっても続けていることでしょう。少し大げさかもしれませんが、「全ての科学は観察から始まる」ともいえるのだと思います。

 「行動観察」は、製品を使っている人の行動や人を取り巻く環境を観察し、そこから必要な情報を引き出す手法です。観察者は、実際に製品を使用している家庭や職場にお邪魔し、ユーザーの行動をくまなく観察します。対象物を細かく「観る」という点においては、小学校の理科と同じ。その目的も事実を知ることにあります。ただ、行動観察には、この先にもう1つの目的があります。観察で得た事実をビジネスに役立てる、とりわけ製品開発に役立てること。その最終目的を効率的に達成するため、行動観察には観察時の「観かた」と「考えかた」が体系化されています。これが、一般的な観察と行動観察の非常に大きな相違点です。

 私は大阪ガスグループのエルネットに所属し、大阪ガス行動観察研究所が体系化した手法を用いて、企業に対してマーケティングや製品開発のためのリサーチを提供しています。これから3回にわたり、同研究所が体系化した、行動観察の基礎を解説していきます。

定量リサーチと定性リサーチ

 マーケティングリサーチの手法は、大きく「定量リサーチ」と「定性リサーチ」に分類されます。定量リサーチとは、数字で集計できるデータに基づく手法のことで、代表的な例が市場調査アンケート。この他、CLT(Central Location Test、会場調査)や通行量調査などもこれに当たります。一方の定性リサーチは、数字だけでは把握できない情報を得るための手法です。例えば、ユーザーから成るグループに会議形式でさまざまな質問を投げるグループインタビュー、ユーザー個人に物事について深く質問していくデプスインタビューなどがこれに当たります。行動観察は、後者の定性リサーチに属する手法です。

 ここで強調しておきたいのは、「定量リサーチと定性リサーチでは目的が異なる」こと(図1)。そのため、必然的に手段も異なります。

図1●定量リサーチと定性リサーチの目的の相違点
定量リサーチと定性リサーチでは、調査結果に求める内容が異なる。
[画像のクリックで拡大表示]

 定量リサーチは、量的な検証を主目的としているので、なるべく多くのユーザーから情報を集める必要があります。対象者数は最低でも100人、多いときには数万人に上ることもあります。そして、対象者の属性には一定の代表性*1が求められます。こうした条件をそろえた上で、例えば、「何%の人が○○を望んでいる」という結果を導きます。

*1 代表性 調査対象の母集団の一部に調査を実施した場合、その結果が母集団全体を正確に反映しているかどうかのこと。

 一方の定性リサーチの目的は、量的な検証ではなく、商品開発や改善につながるような顧客の潜在ニーズを発見することにあります。そのため、一般的な解を多くの人から集めるよりも、少ないユーザーでもいいから心の奥底に隠れた情報を引き出すことが求められます。対象者一人ひとりの心の中に入り込もうとするため、情報処理量やコストの問題で、さほど多くの対象者数を取り扱えません。グループインタビューの場合で属性当たり最低6人、多くても20人前後というケースがほとんどです。

 そんな定性リサーチの中でも、行動観察の場合はさらに対象者数が少なくなります。例えば、家庭内での製品利用行動を観察する場合、4~8人程度が標準です。

 ここで、こんな疑問を抱く方がいらっしゃるかもしれません。「こんなに少なくて本当に信頼できる結果が得られるの?」と。この点については、前述の定量リサーチと定性リサーチの目的の違いが回答になります。

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