重粒子線がん治療装置「HIMAC」などを一般公開した
重粒子線がん治療装置「HIMAC」などを一般公開した
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 放射線医学総合研究所(放医研) 重粒子医科学センター病院 治療課第2治療室長の山田滋氏は、2014年4月20日に開催された「放医研 一般公開」において、消化器がんを中心とするがんの重粒子線治療の実績について講演した。講演タイトルは「消化器がんに対する重粒子線治療」である。

 放医研は1994年に炭素イオン線によるがんの重粒子線治療を開始した。2003年には重粒子線治療が先進医療として認可された。2014年現在では年間で約900件の治療を行っており、治療登録数は累計8200件を超えたという。

抗がん剤や手術との併用療法で高い実績

 治療の効果では手術に匹敵、あるいは上回る実績を挙げているという。例えば、腫瘍径が5cm以上で手術可能な肝細胞がんの治療では、5年生存率が44%と手術と同等の成績を治めている。

 難治性がんとして知られるすい臓がんでも、抗がん剤との併用療法が有効であることを示した。ゲムシタビンと呼ぶ抗がん剤との併用療法では2年生存率で54%と、局所進行すい臓がんの治療としては良好な成績を治めている。この他、術前の重粒子線治療もすい臓がんに対して良好な治療成績を治めているとし、抗がん剤や手術などとの併用療法が高い実績を上げていることを紹介した。

スキャニング照射法などの開発進める

 一方、重粒子線にはコストの高い治療というイメージがつきまとう。実際、重粒子線治療施設の建設費は100億~300億円の水準であり、個々の患者が支払う治療費も300万円前後と高額である。

 ただし、重粒子線治療の治療効果の高さを考慮すると、実はコストパフォーマンスに優れる治療法だと山田氏は主張する。例えば、直腸がんの術後再発に対して、重粒子線治療と「放射線化学療法+温熱療法」を比較した場合、トータルコストの差は20万円にすぎない。対して、両者の5年生存率には30%の開きがある。すなわち、重粒子線治療によって「5年生存率を1%高めるのに掛かるコストは6428円」(山田氏)。これは、抗がん剤の一種である分子標的薬において5年生存率を1%高めるのに掛かるコストが30万~40万円であることに比べるとはるかに安いという。

 山田氏は重粒子治療の今後のテーマとして、スキャニング照射法を用いた“アダプティブ重粒子線治療”や、回転ガントリー法などの開発を挙げた。