重要度増すリファレンス設計

 中国の携帯電話業界は、一般的に端末メーカーが新製品の開発を始めてから市場に投入するまでの期間が短い。例えば日本が10~12カ月なのに対し、中国は7~9カ月、場合によっては4~6カ月の場合もある。製品サイクルも短く、「売れない」と判断されると2カ月程度で生産が打ち切られる場合も珍しくない。短期間に開発するため、端末の基板設計にチップセット・メーカーが用意したリファレンス設計をそのまま流用するケースが多い。それは、リファレンス設計の推奨部品が製品にも採用されやすいことを意味する。

 つまりチップセット・メーカーのシェアは、リファレンス設計の推奨部品の売り上げに大きな影響を与える。このため部品メーカーは、中国のチップセット市場の動向も見極める必要がある。現在は台湾MediaTek社や米Qualcomm社、米Broadcom社、米Intel社などチップセット各社が軒並み参入して、熾烈な競争を繰り広げている(図3)。「開発のサポート人員を端末メーカーなどに無償で派遣するなどして、採算度外視で実績作りをしている」(前出の専門家)。

図3 スマートフォンに移行して変化したこと、変わらないこと
台湾MediaTek社の一強だったチップセットは、米Qualcomm社や米Broadcom社などが次々と参入して熾烈なシェア争いを繰り広げている。日本メーカーが強みを発揮できる高性能・高機能部品の需要は増えているが、一部には低価格化が進んで勝負にならない部品もある。
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値段で太刀打ちできない部品も

 日本の部品メーカーにとって、大きな商機となる可能性を秘める中国市場だが、中には参入しても望み薄な部品もある。特に液晶モジュールと電池は、価格面で中国地場の企業に太刀打ちできないとみられる。これらの部品は山寨機の時代に登場した関連企業が中国内に今も多く存在し、「ヤミ市」ともいえる市場を形成しているからだ。

 液晶モジュールに関しては、中国内でBOE社(京東方科技)や天馬微電子などの工場が立ち上がりつつあることに加えて、台湾の液晶パネル・メーカーがTFT液晶を格安でモジュールを組み立てる企業に流しているもようだ。テクノ・システム・リサーチマーケティングディレクターの林秀介氏はこう説明する。「中国には液晶モジュールの組み立てをする企業が100社以上ある。そこから出てくるモジュールは信じられないほど安く、日本企業がどうコストダウンしても対抗できないだろう」。

 電池についても同様だ。中国には携帯電話用の電池パックを生産している関連企業が700~800社あるといわれ、「大半は数人の従業員が手作業で組み立てている」(テクノ・システム・リサーチ アシスタントディレクターの岸川弘氏)。その多くが、正規品と互換性を持つ、端末メーカー非公認の電池パックを生産している。中国の消費者は予備の電池パックとして、こうした互換品を複数持つことが一般という。そうした電池は安価な代わりに粗悪なものが多い。スマートフォンに最初に付随している正規品の電池とは異なり、非公認の買い替え用電池はクレームが来ることが少ないからだ。

 このように激しく変化する中国市場に対し、日本の部品業界では攻略に向けて動き出したメーカーもある。