消滅に向かう山寨機

 「図1のグラフはあくまで“表の市場”のシェアであり、それとは別に山寨機スマートフォンの巨大な“裏の市場”があるのではないか」と考える人がいるかもしれない。しかし、実際にはスマートフォンの山寨機は中国国内ではほとんど販売されていない。中国の携帯電話事業者が、第3世代携帯電話(3G)に対応した正規品のスマートフォンの普及拡大に熱心なためだ。事業者各社は、多大な投資を行って、中国の大都市を中心に3Gネットワークを構築している注1)。事業者による管理が困難な山寨機に代わって、中国メーカーが開発した安価な3Gスマートフォンを積極的に提供することで、3G通信を普及させようとしているのだ。

注1) 中国には3社の携帯電話事業者があるが、採用する3G通信方式はそれぞれ異なる。最大手のChina Mobile社(中国移動)はTDSCDMA、China Unicom社(中国連通)はW-CDMA、China Telecom社(中国電信)はCDMA2000を採用している。

 以前の中国では、高所得者層は米Apple社の「iPhone」をはじめとする5000元(約6万3000円)程度の高級スマートフォンを購入し、iPhoneを買えない低所得者層は、形だけiPhoneをまねた1000元(約1万3000円)以下の安価な山寨機などを購入するのが一般的だった(図2)。

図2 存在感をなくす山寨機
実質0元で販売されている1000元スマホが台頭してきたことにより、いわゆる“山寨機”の価格メリットがなくなっている。今後、山寨機市場は急速に縮小すると予想されている。
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 この低所得者層に3G通信を浸透させたい各携帯電話事業者は、ユーザーに最初に3Gスマートフォンの代金を支払ってもらう代わりに、基本料金から毎月キャッシュバックすることで、実質的な負担を減らすサービスを編み出した(第2部「中国でも広がる『実質無料』、安くて高性能な端末が続々と」参照)。しかし、端末の購入代金自体が高くては、ユーザーの負担は軽くならない。そこで、中国のスマートフォン・メーカーは、1000元程度で販売できる低コストの端末を開発した。これがいわゆる「1000元スマホ」である。1000元スマホの登場で、中国のユーザーは実質0元でスマートフォンを入手できるようになった。

 もともと山寨機のメリットは価格だけである。大手メーカーの製品が実質無料で手に入るようになれば、存在価値はなくなる。香港在住の携帯電話研究家である山根康宏氏は「(山寨機のメッカである)深圳市でも、スマートフォンの山寨機はほとんど売られていない」と語る。