電子立国ニッポンを支えてきた半導体技術者たちが苦悩している。早期退職などで会社を離れた後、転職先がなかなか見つからないのだ。大企業のかつてのエリートたちが、このような事態に直面しているのはなぜか。

 「Aさん、来週のどこかでお時間を頂けませんか。意を決して会社を出たのですが、次の職場がどうしても見つからず途方に暮れています」。

 かつて国内大手電機メーカーの半導体部門の幹部だったA氏のもとには最近、当時の部下たちから毎週のようにこうしたメールや電話が届く。彼らは決まって40歳代後半で、多くが課長や部長の職にある。久々に顔を合わせると、例外なくよどんだ表情を浮かべている。「考えが甘かったです。私に対する世の中の評価がまさかこれほど低いとは…」。期待のホープとして目をかけていた、あの頃の部下の面影はそこにはない──。

 こうした光景が今、そこかしこで繰り広げられている。“昔の上司詣で”に訪れる者の多くは、半導体メーカーを早期退職で辞めた40歳代半ば以降の技術者たちである。日本の総合電機メーカーの「半導体黄金期」に当たる1985年前後に入社し、20~30歳代の若さで電子立国ニッポンの一翼を担ったエリート社員たちだ。そんな人材が今、早期退職の憂き目にあった上に、転職市場でさまざまな「壁」にぶち当たり、苦悩を深めている(図1)。

図1 さまざまな「壁」に苦しむ転職希望の技術者たち
半導体技術者たちの転職を阻むのは「年齢」「スキル」「産業構造」という三つの要因だ。年齢が高く、転職市場では評価されにくいスキルしか備えていない転職希望者があふれている。
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