学会は東京国際フォーラムや帝国ホテルで開催された
学会は東京国際フォーラムや帝国ホテルで開催された
[画像のクリックで拡大表示]

内耳に備わる周波数弁別能力を利用

 さらに、日本独自の人工内耳開発プロジェクトである「プロジェクトHIBIKI」の取り組みを紹介した。同プロジェクトで開発を目指すのは、電池フリーで外部デバイスを必要としない完全埋め込み型の人工内耳だという。

 同プロジェクトで電池フリーの実現手段として着目したのは、内耳の「蝸牛」が備える周波数弁別能力である。蝸牛は、外部から音が入力されると基底板と呼ばれる部位が振動し、音の周波数を弁別する。そこで、基底板上に圧電素子(ピエゾ素子)を埋め込めば、基底板の振動が圧電素子で電気信号(電圧)に変換され、これによって聴覚神経(蝸牛神経)を刺激できる。この仕組みを使えば、電池フリーの人工内耳を実現できるというわけだ。

 圧電素子を用いた人工内耳の当初の課題は、出力電圧が小さいことだった。具体的には、0.03mV程度の出力しか得られず、聴覚を得るのに必要な出力(50~60mV)に比べて3ケタ小さかった。そこで、圧電素子の厚みを薄くしたり、何枚も重ねたり、新規の圧電材料を採用したりする改良を加えたという。この結果、630Hz帯で60~70mVの出力が得られるようになった。今後は、20~20kHzという幅広い周波数帯で同程度の出力を得ることが目標になるという。