メガソーラービジネスを安定的に運営し、収益性を高めるには、発電事業者が電気設備の知識を備え、適切な太陽光発電システムを構築・運用するのが前提になる。国内メガソーラー向けパワーコンディショナー(PCS)の最大手である東芝三菱電機産業システム(TMEIC)の技術者で、当サイトのアドバイザーでもある伊丹卓夫氏が、メガソーラーに新規参入した事業者が抱く、いまさら聞けないメガソーラー技術の基本に答えた。
前回、説明したように、力率制御の限度は最大で85%と規定されています。従って、系統連系協議の場でこれ以上の力率を求められることはありません。一般的には90%前後が多いようです。では、仮に85%の力率を求められた場合、運用上、メガソーラーの売電量はどのようになるのか、試算してみましょう。
定格出力500kWのPCSに対して、500kW定格の太陽光パネルがフルに発電して、PCSが500kWを出力可能な場合、PCSの定格出力500kWに対して、85%の425kWに出力制限されることになります。
一見すると、75kW分が無駄になるような印象を与えます。しかし、現実のメガソーラーの場合は、こうした事態はほとんど起こりません。
第1回で触れたように、メガソーラーでは、太陽光パネルから電力系統への接続点に到達するまでに、約20%の電力を発電システム全体でロスしています。従って、500kWのパネルと500kWのPCSによる構成の場合、力率85%でも、実体的には影響はありません。
第2回で紹介した「過積載」、つまり発電システムのロスを見込んで、太陽光パネルをPCSの定格出力より多く並べる場合はどうでしょう。
例えば、定格出力500kWのPCSと 600kW定格のパネルという過積載の場合、20%のシステムロスを差し引いても、快晴時にPCSが500kWを系統に出力できるのでロスは発生しません。しかし、ここに力率指定0.85が加われば、PCSの出力制限が425kWになるので、75kW分の売電収入の機会を損失することになります(図)。
ただし、ここまでの過積載にしても、快晴で、本来は425kW以上を出力できるのに、力率制御で機会損失が生じる割合は、年間を通じて見ればそれほど多くないでしょう。
力率一定制御というと、常に一定割合の出力を制限されていると勘違いされる場合もあります。そうではなく、「力率一定制御」は、あくまでも太陽光パネルから取り出して、PCSから出力できる有効電力に、系統から引き込んだ無効電力分が加わることによって、PCSの最大出力が制限されるものです。
425kW以下の領域であれば、影響を受けないのでほとんどの時間はMPPT制御によってパネルからの出力を最大化して売電しています。
このように、過積載のメガソーラーであっても、力率85%による機会損失は、年間の全発電量から見れば小さく、収益性を損ねるような大きな影響を与えるほどではありません。
(次回は、4月30日(水)に掲載予定)