国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)はバイオバンク事業開始に伴い、システム基盤としてFileMakerを採用、バイオバンク情報管理システムをシステム会社と共同で独自開発した。バイオバンク業務のワークフロー自体が固まっていない状態で、頻繁な仕様変更や現場の要求をシステム実装するためにアジャイル型開発手法を指向、短期間に現場のニーズを満たすシステムを実現した。

 国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)の1つである国立長寿医療研究センターは、長寿科学や老年学・老年医学に関する総合的な調査・研究および技術を開発する研究所と、これらの業務に密接に関連する医療を提供する病院から成る。また、より充実した実証研究を行う老年学・社会科学研究センター、より先進的な認知症予防・診断・治療と介護・支援の実用化を目指す認知症先進医療開発センターなどの関連組織を持つ。そして、新たな治療法や創薬などのための研究基盤となる国立長寿医療研究センターバイオバンク(以下、長寿バイオバンク)を2012年4月に発足した。

新たな診断法や創薬研究を目指したバイオバンク事業

 ナショナルセンターによるバイオバンク事業は、病態の解明や新たな診断・治療法開発のため、受診患者の同意・協力を得てバイオリソース(血液や組織)、およびその患者の診療情報を収集(データベース化)して、それを解析することにより個別化医療実現に向けた研究開発の推進を目的とした厚生労働省所管の事業だ。

 2012年4月には6つのナショナルセンターの協同プロジェクトとして、「ナショナルセンターバイオバンクネットワーク」(NCBN)というネットワーク型・連邦型の組織を立ち上げ、本格的に活動を開始している。

国立長寿医療研究センターバイオバンク
副バイオバンク長の新飯田俊平氏

 各ナショナルセンターがそれぞれ専門とする医療研究領域に関する生体試料の保管、臨床情報管理のデータベースを構築し、中央バイオバンク(事務局:国立国際医療研究センター)のカタログデータベースで各センターの生体試料や研究情報を検索できるようになっている。

 「従来は特殊な疾患等を研究している医師が、個人的に生体試料を収集、データ分析を行っていることがほとんど。ところが、研究をしていた医師が退官したり、異動したりすると管理する人がいなくなり、試料やデータは引き継がれることなく破棄されてきたのが実態です。患者さんの同意・協力の下に提供された貴重な試料であり、新たな診断法開発や創薬、さらには個別化医療等に役立てるためには、きちんとしたガイドラインに基づいて生体試料を収集・保管し、臨床情報と一緒に管理していくことが重要です」。副バイオバンク長の新飯田俊平氏は、ナショナルセンターによるバイオバンク事業整備の背景や課題をこう説明する。

 さらに新飯田氏は、一医療研究施設で生体試料を収集・保管し、研究するだけが目的でなく、「NCBCを窓口として多くの研究者に生体試料の分譲および臨床情報を提供し、有益に利用してもらうことがバイオバンクの重要な役目。世界がバイオバンクの標準化に動いている中、バイオバンクがビジネスになるという風潮から、雨後の竹の子のようにバイオバンクと名乗る組織が出てくる状況はあまり芳しくない。競争相手はグローバル。少なくとも公的資金が投入されているバイオバンクに関しては、国が一元化したプロジェクトとして推進すべき時代では」と指摘する。