――太陽光発電システムの事故で被害が発生し、民事訴訟となった場合、設計や建設した企業が損害賠償を負う可能性はあるのか。

吉富電気 吉富政宣氏
(撮影:森田 直希)

吉富 まず、立場と対象物によって異なる。まず立場についてだが、BtoC取引であり、消費者の立場であれば、消費者契約法により契約解除される恐れがある。BtoBであれば商法が基本となるだろう。

 次に対象物については、製品についてはPL法であり、工事目的物については民法の扱いになる。民法では、契約責任が果たされているかどうか、瑕疵担保責任があるかどうかがまず問われることになる。

 最近は新たに、民法上の不法行為、すなわち、民法709条の条文にある、故意または過失によって他人の権利・利益などを侵害した者が、その侵害行為によって生じた損害を賠償する責任を負う、という規定が重要性を増している。

 この規定にある「権利・利益を侵害した者」、「侵害行為によって生じた損害」など、不法行為と認定される要件がどのように解釈されているかが、次の問題になる。それを理解するには過去の判例が参考になる。

 太陽光発電の関連事業者が認識しておくべきなのは、ある建築瑕疵にまつわる、2007年と2011年の二つの最高裁判例である。それは、「別府マンション事件」として知られている。

 大分県の別府にある中古マンションの売買にまつわる判決で、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が問われた。

 このマンションを中古で購入した人が、よく見てみると、廊下に壁伝いのクラックが入っているなど構造上の欠陥があることや、火災報知機の不備、雨漏りなど、さまざまな不具合があることがわかった。  

 ただし、第三者から購入した場合、これまでの判例では、建築会社や設計会社を民法上の不法行為で訴え、勝訴することは難しかった。

 これに対し、この2007年判決は、こうした他者に譲渡された中古の物件であっても、最初に作った設計会社や建築会社にその瑕疵に関する責務があると判決した。

 これを太陽光発電システムに置き換えてみると、システムを取り付けた住宅において、太陽光発電設備に関連する不具合や事故が起きた場合、設置事業者は、最初に購入した住民からだけでなく、中古で購入した者からも訴えられる可能性があることになる。

産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター システムチームの加藤和彦氏
(撮影:森田 直希)

加藤 今後、メガソーラー(大規模太陽光発電所)を転売する場合が増えてくると予想され、こうした事例が発生する可能性がある。

吉富 加えて、過去の民法709条に関する判例は、構造躯体や雨仕舞の欠陥といった強度の違法性がある場合を不法行為とする限定的な解釈を加えてきた。だが、2007年判決は、こうした解釈を変えた。これも、もう一つのポイントである。

 2007年と2011の判決では、外壁の剥落はおろか、バルコニーの手すりがぐらぐらしているといった建築基準法には明示されていない要素に関しても、建物としての基本的な安全性を損なう恐れがある瑕疵として、不法行為と認定する要件として認めた。

 この背景には、1989年に福岡県の公団住宅でタイルが剥がれて落下し、その下敷きになって二人が亡くなったという事件がある。最高裁は、この事件の教訓を判決に反映させた。