メガソーラービジネスを安定的に運営し、収益性を高めるには、発電事業者が電気設備の知識を備え、適切な太陽光発電システムを構築・運用するのが前提になる。国内メガソーラー向けパワーコンディショナー(PCS)の最大手である東芝三菱電機産業システム(TMEIC)の技術者で、当サイトのアドバイザーでもある伊丹卓夫氏が、メガソーラーに新規参入した事業者が抱く、いまさら聞けないメガソーラー技術の基本に答えた。

 メガソーラーが自立運転するためには、前回の回答の通り、パワーコンディショナー(PCS)には、通常の「系統連系制御回路」に加えて、交流出力を一定の電圧、周波数に制御する「自立運転制御回路」を備え、これを切り替えて使う必要があります。

 それだけではありません。自立運転を行う場合には、自立運転負荷専用フィーダを追加し、非常用電源と通常の系統電源を選択するための切り替え回路が必要になります()。

通常の系統連系制御回路に加えて、自立運転制御回路を備え、これらを切り替えて使う
(出所:著者)
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 太陽光発電システムの自立運転で問題となるのは、非常時の電力の供給先が、電気方式の異なる100Vにステップダウンさせる変圧器や飲料水をくみ上げるポンプなどが想定されることです。変圧器を励磁させるには、通常の10倍程度の励磁突入電流(瞬間的に流れる非常に大きな電流)を流す必要があります。

 また、ポンプを駆動するモータを起動する際にも、大きな起動電流が必要になります。いずれも、起動後の消費電力は平均的には小さいものの、起動時に瞬間的に大きな電流が必要です。

 太陽光発電システムは、過負荷特性がないので、こうした特性の電力負荷に対応することは苦手です。起動後の定常運転に必要な電力をベースに、太陽光発電の定格出力を目安にすると、起動時の大電流を賄えません。また、晴れの時ばかりではなく、雨や曇りの日、朝夕などの低日射時間帯があります。

 太陽光は、気まぐれで希薄なエネルギー源であることを十分に考慮して、負荷を選ぶ必要があります。ただし、太陽光パネルが過負荷特性を持たないという欠点を補う方法もあります。

 変圧器の励磁突入電流は、PCSから印加する電圧を数秒間かけて定格電圧まで立ち上げることで抑制できます。また、ポンプの起動電流は、起動時の電圧と周波数を一定の比率でソフトスタートをかけることで、起動電流を抑制することが可能です。さらに、複数の非常用負荷に対し、負荷側に順序投入回路を設けることで起動時の短時間領域における負担を分散させることができます。

 さらに、こうした起動時の短時間領域の電流や、不安定な日射エネルギーをサポートする方法として、メガソーラーに蓄電池を併設したり、非常用の発電機を設置し、それらを系統に見立てて太陽光発電システムを連系することが考えられます。しかし、いずれも導入コストが高くなります。蓄電池を導入する場合には、蓄電池が寿命品であり、定期的なメンテナンスや交換が必要です。

 これに対して、メガソーラーの自立運転が必要になるのは、20年間という電力の買い取り期間において、恐らく、一度あるかないかのことでしょう。そのために、高い導入コストをかけて、自立運転機能を備えるには発電事業とは異なるスキームが必要となります。

 また、地上設置型のメガソーラーは、売電を目的とした発電所です。ほとんどの場合、市街地から離れた郊外にあり、非常時に給電が必要な負荷は、近くにありません。

 一方、施設の屋根などに導入される太陽光発電システムの場合、施設内の非常用電源として使えるので、検討しやすくなると言えるでしょう。

(次回は、4月2日(水)に掲載予定)

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