農林水産省 食料産業局 再生可能エネルギーグループの信夫隆生グループ長
(撮影:清水 盟貴)

 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が施行されてから、太陽光発電所の建設地として、現在は農地として使われていない耕作放棄地などの活用に注目が集まっている。ただし、そこには農地法などに基づく規制など、いくつかの障害もあった。こうした状況の中、農山漁村に再エネの円滑な導入を進めやすくし、同時にその地域の活性化につなげていくための法律が成立した。農林水産省 食料産業局 再生可能エネルギーグループの信夫隆生グループ長に、その狙いなどを聞いた。

――農山漁村に太陽光発電システムなどの導入を円滑に進められる法律が、2013年11月に成立した。この狙いを教えてほしい。

信夫 まず、背景として、日本の国土の66.3%を森林、12.1%を農地が占めているなど、約9割は、農山漁村と呼ばれる地域が占めている。

 再生可能エネルギーの観点からみると、発電に向く土地が多く残っているのが農山漁村といえる。しかも、農地の利用状況として、2011年度(2011年4月~2012年3月)の時点で、農業上の再生利用が困難な荒廃農地が全国で約13万ヘクタールもある。

 こうした荒廃農地、そして、森林に切り捨てられたままの未利用間伐材などは、現状では地域の発展のために利用されておらず、再生可能エネルギーによる発電を通じて、農山漁村の活性化につなげる必要があると考えた。

 特に、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が施行され、再生可能エネルギー発電事業の事業性が大幅に改善されたため、地域で適切に発電事業に取り組めば、地域の活性化につなげられるようになってきた。

 しかし、農山漁村に再生可能エネルギー発電設備を整備しようとする場合、二つの大きな課題がある。

土地の利用調整と利益の還元の課題をいかに解消するか

信夫 一つは、土地や水域の利用調整である。例えば、農業で使っている土地、それも、国民の税金を使って行われる土地改良事業を活用して、農業の生産性を向上するため整備された土地に、太陽光発電システムなどが野放図に設置されたのでは、国民の理解が得られない。さらに、一部を除き、再生可能エネルギー発電事業そのものは、地域に大きな雇用を生まない。

 このため、農業に必要な農地を潰して再生可能エネルギー発電事業に取り組むといった、事業の入れ替えになってしまっては、地域の活性化にはつながらない。

 一方で、かつて農地だったが、現在は荒れていて、今後、農地としては使えないという土地に再生可能エネルギー発電設備を導入するのであれば、土地の有効活用の観点から見た時に、ゼロから新たな事業が生まれることになるため、地域の活性化になる。このように、地域の土地利用、特に農林漁業上の利用と調和させながら導入できないかと考えた。

 もう一つは、発電事業による収益が地域に還元されるのかという視点である。例えば、地域外の企業による発電事業については、そのままでは、売電収益は地域外に流出してしまう。この場合、発電所が立地する地域に入るのは、土地の売却益または賃貸料と固定資産税に限られる。

 そこで、その地域で安定的に発電事業を営んでもらいながら、農林漁業を基幹産業とする農山漁村を活性化するために、売電収益の一部を、立地する地域の農林漁業の発展のために使ってもらうことを考えた。

 さらに、将来的には、発電した電力を、農林漁業の生産活動に広く使えないかとも考えている。冬期の暖房などに使う燃油のコストを、再生可能エネルギーによる電力などで低減できれば、農林漁業経営の強化につながる。

 このように、農林漁業と再生可能エネルギーを両立し、その関係性を高めることで地域の活性化につなげていきたい。このような問題意識を持っていた。