2011年4月に「新総合医療システム」を本格稼働させた福井大学医学部附属病院(以下、福井大学病院)。サーバーとデスクトップ(電子カルテ端末)仮想化技術を取り入れ、プライベートクラウド環境による病院情報システム(HIS)を構築している。

 部門システムを含めたサーバー統合やシンクライアント化などにより、これまでサーバーや電子カルテ端末に偏ったインフラIT投資を見直し、院内ネットワークと学内ネットワークの統合化・仮想化、院内ユビキタス医療に向けたネットワーク整備などを強化し、病院情報システム全体の最適化を図っている。


福井大学医学部附属病院の玄関口

 医療界では、一般企業のIT化に比べると最新テクノロジーや先進的なアーキテクチャーの導入は進んでいるとは言い難い。最近でこそ、大学病院など大規模病院の病院情報システムで仮想化技術やSOA(サービス指向アーキテクチャー)を採用するケースも出てきている。だが、オーダリングや電子カルテシステムなどは長年にわたる運用の継続性を重視しているため、診療支援機能の強化は進んでいるが、基幹部分での技術的な革新性よりも、継続性に重点が置かれてきたきらいがある。

 また、広範で特殊性の高い部門システム開発は、中小ベンダーが担っており、現場の業務ニーズ反映を優先してきた。だが図らずもこれが、ITの進化スピードを損ねてしまった感がある。

 そうした中で、福井大学病院が試みている仮想化・クラウド技術を活用した病院情報システムとネットワーク構築は、斬新でチャレンジングな試みと言える。同病院の先進的な病院情報システムインフラとは、どのようなものか――医療情報ネットワーク事業に注力するアライドテレシスが主催した病院ネットワーク見学会で観察した、病院情報システムの最前線をレポートする。アライドテレシスは、同社製品のユーザー(病院)を中心とした「医療ユーザー会」を設立しており、福井大学病院の医療情報部副部長 山下芳範氏が同会の会長を務めている。

船舶用冷凍コンテナがサーバールーム、設備費が安く冷房効率抜群!

福井大学病院の医療情報部副部長 山下芳範氏

 福井大学病院は、病院情報システムのクラウド化を機にこれまで建物内に設けられていたサーバールームを、敷地内の一角に設置したコンテナに移した。以前は約35台あった電子カルテや部門システムの物理サーバーが、仮想化によって仮想デスクトップ用サーバーも含めて2つのブレードシャーシ、1本のラックに収納できるようになるなど、大幅に省スペース化されたことを受けての移設である。

 「病院の電源設備とは別に系統を確保できるし、建物の床の荷重対策をしなくても十分な容量の無停電電源装置を設置できます。院内のサーバールームと異なり、ホコリも遮断できるのでハードウエアへの悪影響もありません。何よりも建物と違い建設費が圧倒的に安い。5年後には移設する必要があり、そのまま運んで設置するだけという手軽さもあります」。山下氏は、屋外にコンテナによるサーバールームを構築した理由をこう述べる。

 設置した船舶用冷凍コンテナは8棟。2棟に無停電電源装置を、4棟にHIS系システム(HISサーバー、HISストレージ、データの長期アーカイブ用システム、PACSなど画像系システムが各1棟)を、2棟に心電図や麻酔など医療機器用システムを配置している。冷房装置は1カ所に室外機を集め、各コンテナの冷房機に冷気を送っている。船舶用冷凍コンテナは赤道直下で冷凍機が故障しても1週間は中の品物が溶けないといわれるほど断熱性が高い。冷房効率は非常に高く、耐火性もある。

船舶用冷凍コンテナを利用したサーバールーム。断熱性が高く、冷房効率が非常にいいという。2棟に無停電電源装置、4棟にHIS系システム、2棟に医療機器用システムが割り当てられている
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無停電電源装置用コンテナの裏に設置されている配電盤。2系統の商用電源(切り替え式)と、非常用発電機が使えることに加え、非常用電源車を横付けして給電できるため、災害時等の電源確保は万全
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ずらりと並ぶエアコンの室外機
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頑丈な南京錠でロック。しっかりとセキュリティを確保する
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サーバールームを見学している様子。地面との間にかなりの段差を設けている

 電源系統は異なる2系統から受電し、両系統が遮断した場合は無停電電源装置で約1時間は給電できるほか、商用電源遮断から3分後には病院の非常用電源(発電機)が起動する。さらに、非常用電源による給電が逼迫した際には、無停電電源装置用コンテナに非常用電源車を横付けして給電できるように、配電盤に接続端子を設けた。システムへの給電系統の冗長化も万全である。「建物内のサーバールームより災害対策が取りやすいのも、コンテナ型サーバールームの利点。非常用電源車は、計画停電の際にもサーバーは停止させることなく稼動できます」(山下氏)。