佐賀県立病院好生館の佛坂俊輔氏
佐賀県立病院好生館の佛坂俊輔氏
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製鉄記念広畑病院の平松晋介氏
製鉄記念広畑病院の平松晋介氏
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仙台厚生病院臨床検査センターの千場良司氏
仙台厚生病院臨床検査センターの千場良司氏
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徳島大学大学院・ゆうあいホスピタルの木村敦氏
徳島大学大学院・ゆうあいホスピタルの木村敦氏
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薬剤識別支援システムの画面
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 日本ユーザーメード医療IT研究会(J-SUMMITS)が、6月8日に仙台市のホテルで開催した「J-SUMMITS Special Seminar」では、同研究会のメンバーがFileMakerを活用して自ら開発したさまざまな医療情報システムを紹介した。医療現場で主に業務の効率化のために工夫したユーザーメードITシステムと、ユーザーメードITシステムと電子カルテの連携による医療情報システムの2部構成で発表された。

医療現場で工夫するユーザーメードITシステム

 佐賀県立病院好生館の整形外科医 佛坂俊輔氏は、手術説明・同意書を冊子化するツールの運用による同意書作成業務の効率化について発表した。手術や検査、治療などインフォームドコンセントで必要になる書類は、種類や内容の増加により、患者個別にカスタマイズした書類を冊子化した説明・同意書を用いる傾向がある。そうした個別の書類の作成業務が増えて、診療時間を圧迫しつつあるという。

そこで同氏は、手術・検査・処置などの同意書類の集中管理、安全管理を考慮した説明文のフォーマットや内容を確認しやすい環境整備を目的に、患者説明様式作成ツールを開発した。個々の症例の既製説明文のテンプレートを利用しカスタマイズすることで、個別ニーズに応じた説明冊子を容易に作成できる。

 このツールにより、ある同意書冊子の作成開始から印刷までの所要時間を統計・分析すると、約80%が10分以内に完成し、11.5%が11~20分以内に完成・印刷されるようになったこと。「作業開始や印刷、変更処理などの作業工程に日時分秒のデータを持たせることで、調査・分析を可能にした。簡単な仕組みだが、こうした自分の思いつきを調査のための機能として容易に実装できる点は、ユーザーメードITシステムならでは」(佛坂氏)だと述べた。

 名古屋記念病院副院長の草深裕光氏は、電子カルテシステム、FileMakerによる業務システム、主に紙媒体の記録を管理するProRecord(富士ゼロックス)を連携し、診療記録を統合管理する医療情報システムの構築について発表したこちら。草深氏は、「新たな業務アプリケーションは各部署の担当者、職員が現場ニーズを元に設計し、システムベンダーの支援によりシステム化した。それぞれの協力があったからこそ実現できた」とプロジェクトの成果を述べた。

 製鉄記念広畑病院 第一産婦人科部長の平松晋介氏は、電子カルテ情報を利用した診断書作成支援ツールの開発について発表。その動機として平松氏は、「約50社の生保会社、損保会社では、少ない会社で5形式、多い会社だと10~20形式の診断書のフォーマットを持っており、各様式に沿った診断書作成は医師の大きな負担となっている。保険会社などの診断書作成ソフトがあるが、電子カルテとの連携が不十分で、自動転記できる項目は少ない。そこで、電子カルテ情報を利用して各様式に対応した入院証明書、交通事故に対する医療証明書、特定疾患認定のための診断書などを、FileMakerで容易に作成可能なツールを開発した」という。

 特に負担が大きいとされる入院証明書の作成では、入退院情報、治療内容などの詳細項目について、入退院情報は電子カルテの入退院基本情報より、入院経過や治療内容は退院サマリーの内容から、手術情報や放射線治療情報などはDPCデータを利用して自動入力する仕組み。「電子カルテの検査データなどは、コピー&ペーストできるようになっている。クリップボード経由によりボタン1つで入力できるようにし、極力キーボード操作が少なくした。作成したレイアウト数は約270、入力用の総ボタン数は約2500。これだけのファイルを一人で作成した。毎日2~3時間を作業にあてたが、約3カ月という短期間で開発できた」(平松氏)と述べた。

 仙台厚生病院臨床検査センター病理部部長千場良司氏は、「病院病理部門におけるエンドユーザーコンピューティング」と題して、FileMakerで開発した外部受託病理検査管理システムについて発表した。仙台厚生病院は病理部門開設当初から、院内の病理検査以外に関連病院・診療所の組織診断年間4000件、細胞診年間3500件を受託する必要があった。受託病理検査の料金体系は一般の診療報酬と異なり、また依頼元医療機関の電子カルテへのデータ対応が必要だったことから、院内の病理部門システムとは異なる外部受託専用の病理検査管理システムをFileMakerで開発・運用している。

 病理検査では、検体の受付(院所名、患者属性情報、臓器に関する情報、依頼医師・施行医師名、臨床診断など)、標本切出、受付項目の再確認(二次受付)、標本作製、診断書作成、診断書配布という工程があり、これらの履歴を検査ごとに一元的に記録・管理できることがシステム要件となる。

 「これらの要件に加え、各工程のフィールドごとの職種(病理診断医、細胞検査技師、臨床検査技師など)によるアクセス・編集制限の設定や、受付時のデータを基にした患者台帳の自動生成、経年検査による複数回の報告書発行、他院の電子カルテへの自動取り込みを可能にするCSVファイルの出力が可能」(千場氏)と開発したシステムの特徴を述べた。病理検査では顕微鏡画像や手術摘出された臓器の肉眼像などを一括して管理する必要があるというが、「従来は難しかったが、FileMaker 12になって、オブジェクトフィールドの機能が充実し、こうした画像一括管理することが可能になった」(千場氏)と指摘した。